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タランティーノの8作目となる作品。168分という長さで途中休憩もないので、鑑賞前に利尿効果のある紅茶などは控え、トイレは必ず済ませてからの着席をオススメする。
西部劇でありつつ、舞台は白銀の冬山。そこで猛吹雪に襲われて、道中にあるミニー洋品店で一夜を明かすことになる、8人のワケありな男女。冒頭の馬車での移動ののち、物語はほぼミニーの店での室内劇となる。
馬車で道を急ぐ賞金稼ぎジョン・ルース(カート・ラッセル)と、彼に移送される懸賞金のかかった女デイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)。その馬車に乗り合わせた、もう一人の賞金稼ぎマーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)と、彼らが目指すレッドロックで、明日から保安官に就任すると言う男(ウォルトン・ゴギンズ)。彼らは吹雪を避けるためにミニーの店に寄った。そこにいる、得体のしれない先客の男たち。だが肝心のミニーとその夫はおらず、店主の代わりだというメキシコ人のボブがいた。
人殺しの女で、猛烈にガラの悪いジェニファー・ジェイソン・リーが、言葉数は少ないのに、男7人に引けを取らない存在感を放つ。そして彼女をレッドロックに連れて行って、絞首刑にしようとする賞金稼ぎのカート・ラッセル。タランティーノとは『デス・プルーフ in グラインドハウス』(07年)以来だが、タランティーノが自作において、カート・ラッセルに試みていることが、本当に面白くてしょうがない。ネタバレを避けるが、『デス・プルーフ』のラストといい、ラッセルに対してこういうことがしたいのかと、その不思議な欲望にニヤついてしまった。
さすがに長尺なため、エンジンがかかるまでの空虚な会話劇がしんどくもあるのだが、死の予兆が忍び込む辺りからは、その渋さが際立つ。殺人者とそのたくらみが明かされたあとの、ガラッと勢いの変わる陰惨さは視覚的に楽しい。そしてやりつくしながらも、諦めの笑みが残る死というのは、抒情的で胸に残るものだ。
音楽がエンニオ・モリコーネというのも、それだけで嬉しい。西部劇はなんと40年ぶりとのことだが、まさに最盛期のモリコーネ節が炸裂していて、男性コーラスの掛け声に併せた馬の疾走を見ているだけでも高揚するものがある。
推理劇としては、若干意外性には欠くものの、タランティーノらしい時間軸をいじった構成によって、目新しい気分で見られる語りとなっている。物語を切り回すサミュエル・L・ジャクソンも、室内劇を十分に切り盛りしていて、さすがの手練手管。出番は少ないが、チャニング・テイタムのチャーミングさも、まさに「映画に花を添える」という印象だ。肉体美が誇張されがちなチャニングを、存在感がコケティッシュな美男子として捉える感性が、タランティーノらしい。
text: Yaeko Mana
『ヘイトフル・エイト』
監督:クエンティン・タランティーノ
製作:リチャード・N・グラッドスタイン/ステイシー・シェア/シャノン・マッキントッシュ
製作総指揮:ボブ・ワインスタイン
出演:サミュエル・L・ジャクソン/カート・ラッセル/ジェニファー・ジェイソン・リー/ウォルトン・ゴギンズ/デミアン・ビチル
配給:ギャガ
2016年2月27日(土)より、新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
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