16 3/22 UPDATE
フランスで大ヒットしたコメディ映画。世界145カ国で公開されたのもうなずける、国際化が進んだ現代の結婚事情をテンポ良く、ユーモラスに描いた作品である。
フランスのロワール地方に暮らすヴェルヌイユ夫妻には、4人の娘がいる。しかし長女から三女までが次々とアラブ人、ユダヤ人、中国人と結婚し、穏やかに暮らしてきたヴェルヌイユ夫婦は、突然異文化にさらされることになる。
ちょっとした記念日に集まる食事からして大変だ。宗教観に基づいて豚肉は使えなかったり、調味料の好みが決定的に違ったりして、感謝祭では三種類の七面鳥を焼くような面倒まで起こる。婿たちもお互いの文化の違いに敏感で、割礼を巡って言い争いになったりもする。でも娘夫婦たちの仲はそれぞれ良くて、どんどん子供も生まれていくし、とめどない異文化交流に疲れ果てるヴェルヌイユ夫妻。
そして最後の希望だった末娘だけが、やっとカトリック教徒の男性と結婚すると言ってくれた。だが、彼女は両親に対し、重大なことをなかなか切り出せずにいた。それは、相手がアフリカのコートジボワール出身の黒人青年だということ。おまけに彼の両親は、白人との結婚に大反対だった。こんな状況で、四女の結婚は果たして――。
全員が、お互いに差別をするつもりはないが、それぞれの民族性に特徴があって、その馴染みづらさがどうしても顔に出てしまう。ユダヤ人の婿はユダヤ教徒なので、ヴェルヌイユ家のクリスマスパーティーに呼ばれた際、「ルーツは同じはず」と自分に言い聞かせたり努力はしている。アラブ人の婿は普段、移民の暮らしで苦労して、不良になってしまった少年たちの弁護に当たっている。不良だから差別されるのか、差別されるから不良化するのか、そんな微妙な問題を提示しながらも、本作は笑いに誘っていく。
しかし、やっとカトリック教徒の婿がくると思った両親は、じつはアフリカ系だと聞かされ、さすがに冷静な精神状態を保てなくなる。それに婿の父親も凶暴で、結婚式のためにフランスへ来ても、わざとアフリカの民族衣装で現れるような自己主張の強さだ。四女も愛する人と結婚したいが、そのために両親を苦しめていると感じ、悲嘆にくれる。同じ頃、絵描きでメンタルを病んでいる三女が、玄関にあった自分の絵が外されたことでメソメソしているのもおかしい。
これだけの話が、97分という短さで描かれるのだから見事なまとめぶりだ。展開もそつがなく、ギャグもさらりとしていて非常に気楽に楽しめる。現代的なテーマで、辛辣さや現実味も添えつつ、大団円にもちこむストーリーテリングは、じつは最近では少なくなった娯楽路線だと感じる。本当は月に一本くらいこんな映画を見られるのが、とても幸せな映画体験だと思うのだが。
text: Yaeko Mana
『最高の花婿』
監督:フィリップ・ドゥ・ショーブロン
製作:ロマン・ロイトマン
脚本:フィリップ・ドゥ・ショーブロン/ギィ・ローラン
撮影:バンサン・マチアス
出演:クリスチャン・クラビエ/シャンタル・ロビー/アリ・アビタン/メディ・サドゥン/フレデリック・チョウ
配給:セテラ・インターナショナル
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開中
http://www.cetera.co.jp/hanamuko/
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