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アピチャッポン・ウィーラセタクンの新作。「カイエ・ドゥ・シネマ」の2015年度ベストテンで、2位に輝いた作品である。かといって、難解なわけではない。不思議なカットや素っ頓狂な設定が続いていき、なんだかわからないうちに見入ってしまう映画だ。
舞台はタイ東北部のイサーン地方。古い風通しの良い木造家屋に並べられたベッド。そこでは男たちがこんこんと眠っている。ここはかつて、学校だった病院。この部屋中のベッドで眠る男たちは元兵士だ。病院を訪れた足の不自由な女性ジェンは、真っ青なタオルケットをかけられた、面会者のいない"眠り病"の青年の世話を見始める。病院には眠る男たちの魂と交信する、特殊な力を持つ若い女性ケンもいる。病院では夢を光で表すらしい、不思議な棒が導入された。眠り続ける男たちの間で、青白く輝く光の柱。
ケンとジェンの会話も、食事や他愛もない経歴を語り合う、本当になんてことのない話だ。どちらかというと、前半ではケンのしたたかさがわかって、世知辛いな......という気分に軽くなったりする。
そして眠り病の男たちが、特に理由もなく不意に目覚め始める。ジェンが世話していた男イットも目が覚め、二人は身の上話や、眠っていた間の話を交わす。だが眠りは起きたら終わりではなく、また眠り病に陥っていく者も現れる。
本作はアピチャッポンの2006年度作品で、今年初めて日本公開された『世紀の光』と姉妹篇といえよう。地方の病院が舞台で、婦長たちのダラダラした会話で映画が進んでいく雰囲気などは似た印象を受ける。もちろんテーマは異なるし、重要な時間軸の使い方はまったく異なる。『光りの墓』の治療に用いられる光の棒には、現代美術作家としても活躍するアピチャッポンの片鱗が見える。
だが『世紀の光』で用いられた実験的手法は、『光りの墓』においてはとてもかみ砕いた、わかりやすい形で現れる。より笑え、ラフになった演出。特に『世紀の光』で度肝を抜いたラストシーンがあるのだが、本作でもクライマックスで同様のことが繰り返させる。しかし、その尖っていない演出に、映画作家としての年輪が見えるようだ。なによりも、『光りの墓』のラストシーンにはぞわぞわと迫りくるものがある。不穏さを感じさせながら、容赦なく心を奪っていくラストだけでも、アピチャッポンの才気走った溢れだす創造性を感じる。
text: Yaeko Mana
『光りの墓』
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
製作:キース・グリフィス/サイモン・フィールド/シャルル・ド・モー/ミヒャエル・ベバー
出演:ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー/ジャリンパッタラー・ルアンラム/バンロップ・ロームノーイ
配給:ムヴィオラ
シアター・イメージフォーラムほか全国公開中
www.moviola.jp/api2016/haka
©Kick The Machine Films / Illuminations Films (Past Lives) / Anna Sanders Films / Geißendörfer Film-und Fernsehproduktion /Match Factory Productions / Astro Shaw (2015)