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じつはこれまで、パオロ・ソレンティーノ監督の映画はあまり好きではなかった。『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』(12年)の硬質さは嫌いではなかったが、ショーン・ペンが全盛期を過ぎたミュージシャンを演じた『きっと ここが帰る場所』(12年)は、冒頭の30分ほどは素晴らしかったのに、後半1時間30分はよけいなフィルムがくっついてるとしか思えなかった。だが、この『グランドフィナーレ』は際どい均衡を保ちつつ、個人的にはとても好ましい。
アルプスの高級ホテル。養生中のイギリス人で引退した作曲家、フレッド・バリンジャー(マイケル・ケイン)と、最後になるかもしれない映画を準備中の監督、ミック・ボイル(ハーベイ・カイテル)は長年の親友だ。ホテルには謎めいた人々の、断片的な逸話が溢れている。新作の役作りで逗留する俳優、ジミー・ツリー(ポール・ダノ)や、父フレッドの助手であるレナ(レイチェル・ワイズ)もいる。フレッドとミックは、緩やかな山道へ散歩に出ては、音楽家や映画監督に切り離せない恋愛の思い出を語る。創作の原動力である、感情を揺さぶる恋。
この映画はドラマとして、一つの核への吸引力を持っているがゆえに成功している。それはもちろんマイケル・ケインであり、彼とゆっくりボケとツッコミを交わすハーヴェイ・カイテルの物語である。これまでのソレンティーノに見られた散漫な感性の映像は、本作においてはマイケル・ケインに集約されていき網の目を形作る。老人の夢想と現実の往来も嫌味なく、映画的な飛翔として楽しめる。
原題の「Youth」という若さ、青春を意味する言葉とは正反対の邦題だが、どちらもこの映画の主要なテーマだ。娘をはじめとする若者たちは、いまだに恋をしたり、恋に破れたりして嘆いている。けれど、老いもまたそれぞれの人間が突入していく、初めての経験である。若者に自分が過去に体験した恋に基づいて助言は出来ても、老いの不安は日々、フレッドたちも新たに体感していくしかないことだ。
ホテルには裸で自由に入れる開放的な入浴場がある。フレッドたちが今や失った恋や性欲の高まりを象徴するように、ホテルにはミス・ユニバースが滞在することになり、彼女が全裸で風呂場に現れるシーンが圧倒的だ。入浴場での三者の姿はどうしようもないほど、最盛期の若さと、取り返しのつかない老化が写し出される。若く、美しさに恵まれた者は、自らそのことを楽しまなければ罪深いくらいの印象は、強烈で魅力的だ。
しかしポール・ダノがとある扮装をする辺りからは、やはりいつもの軽薄さを感じてしまって、支持できない。全般に好きな映画であるし、老人たち各々の結論も受容できるが、部分的に不快も同居する点で、映画といううごめきを捉えるのは改めて難しいと思う。ラストも、前半の気品はどうしたのかという驚きがあった。鼻にプラスチックとだけ言っておくが......、このチープさとの同居が、ソレンティーノ監督のなかなか食えないところだと思うのだ。
text: Yaeko Mana
『グランドフィナーレ』
監督:パオロ・ソレンティーノ
製作:カルロッタ・カロリ/フランチェスカ・シーマ/ニコラ・ジュリアーノ
共同製作:ファビオ・コンベルシ
出演:マイケル・ケイン/ハーベイ・カイテル/レイチェル・ワイズ/ポール・ダノ/ジェーン・フォンダ
配給:ギャガ
新宿バルト9、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
http://gaga.ne.jp/grandfinale/
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