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THINK PIECE

RYOTA AOKI × SHIN SUZUKI

陶芸家・青木良太と写真家・鈴木心が問いかける、新しい価値観。

11 12/21 UP

photo:Shin Suzuki, Ryota Aoki text:Madoka Hattori

S
「器を撮る時は、肉眼では見えない距離感を撮るように心がけています。もちろん近くに寄って見ることはできるのですが、写真は肉眼とは違う見え方ができる。また、机に置いてある状態では基本的に斜め上から見ますが、真上からや真下からの視点を入れることで、他の人が見ていないアングルになるかなと。とはいえ沢山の器を撮影していると、そんなに引き出しがあるわけではないので、だんだん苦しくなってくるのですが」
A
「毎回、新しい挑戦をやってくれるんですよ。前に撮影してもらっていたカメラマンさんは、最初は新鮮味があっていいのですが、だんだん飽きてくるのか、どんどん写真の質が落ちてくる」
S
「恋愛と一緒なんでしょ?(笑)」
A
「そう。どうしても倦怠期ってあるんですよね(笑)。だから同じような撮影をしていると、少なからずマンネリ化するものだと思い込んでいたんです。でも、心くんが全くマンネリ化せずにどんどん新しい見せ方を打ち返してくれるので、僕はすごく面白くって」

S
「青木くんの器を撮影して初めて、生きている陶芸家はうるさいってことがわかりました。新しい器が出来て送られてきたら、新しい解釈をして返す。やりとりを重ねることで僕自身の器に対しての目が肥えていくし、青木くん自身も写真に対して厳しくなっていく。今回はちょっと違うなとか、もっといけるだろうって。そうやって何度かやりとりを重ねるうちに、一度きちんと形にまとめたいなと思ったんです。とはいえ、どういう本にするのか、アトリエの写真を入れるのかなど、かなり悩みました。器の撮り方も、背景をどうするのか、屋内なのか野外なのかって、何パターンも試したよね?」
A
「最終的な本のスタイルにいきつくまで、全然しっくりこなくて……。こういう本にしたいという具体的なイメージはなかったのですが、ある一定以上の本でないと出したくないと思っていたんです」
S
「とにかく自分でできるありとあらゆる方法を試したのですが、全くOKがでなかった。青木くんの中にイメージがあるわけではないので、デザインに関しても漠然としていて。納得させるためには言葉でなく、モノで引き出さないといけないから、沢山のパターンを用意しました」

 

──
鈴木さんの中でベストなものもあったと思うのですが、なぜOKがでないか理由はわかったのですか?
S
「青木くん自体をよく理解できていなかったのだと思います。青木くんは陶芸家と名乗っていますが、はっきりいって“陶芸家”ではない。いわゆるみんなが思い浮かべるような陶芸家としての作品づくりは全くしていない。だから陶芸だと思って見ている限り、平行線のままなんです。では、青木くんは何なんだろうと考えたら、オシャレで目立ちたがりだということに気がついて(笑)。それで金の器を見た時、ファッションブランドのカタログのような落とし込みを求めているのだなと。ルックブックやファッション誌に掲載されている物撮りような解釈で撮影すれば、陶芸界に対して一石を投じられるし、陶芸に興味のない人にも届くのではないかと思ったんです。そこで、アートディレクターとして(吉田)ユニちゃんにお願いすることにしました。たまたまユニちゃんも陶芸に興味があったみたいで、ようやくチームができたという」
A
「今まで何度か本を作る話はあったのですが、この人なら大丈夫という人はいなかった。でも心くんとやりはじめてようやく本にしたいなって思ったんです」

S
「ディティールに寄った表紙のアイデアもユニちゃんからの提案でした。青木くんの器は質感がすごく面白いので、左ページは正面か真上もしくは真下、右ページはディティールという構成になりました」
──
青木さんのファンの方々の反応はどうでしたか?
A
「そもそも本を出すことを事前に告知していなかったので、びっくりされました。本を買いに、わざわざ福岡から来てくれたり。やはりきちんと本という形にすることで、すごく広がりができたと思います。日本はもちろんですが、海外で展示する時に、WEBサイトを見せるだけでは伝わらない部分が、本があることで覚えてもらえるかなと。今回はべストアルバムのような感じで作りましたが、次は色でやりたい。このフォーマットでどんどんシリーズ化していきたいと考えています。心くんが撮ってくれれば、ですが(笑)」
S
「もちろん撮るよ。青木くんの器に触れていると、色んな骨董を見ても現実に引き戻されるんです。ガラスケースの中ではなく、今生きている陶芸家がさっき焼いたばかりという器を見た時に、同じ時代に生きているという実感がもてる。さらに青木くんは歴史的なことに執着せずに、今の時代をきちんと見ている。そこが面白いので、どんどん挑戦したくなるんですよね」