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THINK PIECE

GRV Lesson 2012

新しいchappieを通じて体系化される、「チャッピー・システム」

12 8/23 UP

photo: Kentaro Matsumoto interview: Tetsuya Suzuki

 

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「フレームレス」ということの可能性や意味合い、あるいはリアリティが、チャッピーが誕生した94年と2012年では考え方や捉え方が変わってきたとも思うのですが。
「ひとつ言えるのは、フレームレスって、ちょっとユートピア的な概念だったと思うんですが、デジタル空間と電子端末の登場などでそれが意外と現実になってきたというのはあります。例えばこのiPadに表示している作品も、ループで動いているだけである種フレームレスになっている訳ですね」
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現実世界には物理的なフレームは当然ある。でもインターネットというのはフレームレス=無限の存在を示唆してくるわけですよね。そういうことに対してのリアリティが現在と90年代半ばとでは変わってきたということですね。
「まったくその通りですね。でも、80年代後半にポストスクリプトでグラフィックを作って、イラストレーターが出て来て、『ああ、もうフレームレスなんだな』という感じはありましたけどね。だた、今みたいにここまで、当時でいう電脳空間が成熟すると、やはり凄みがあります」

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例えば、今回の展覧会にもある、自分をチャッピーに模して名刺を作成できるサービス、あれなんかも、名刺という社会的なアイデンティティを象徴するものに、チャッピーを使うということで、ある種の「アバター化」を意識しているというようなことは……。
「最初は、例えばウォーホールがポラロイドとシルクスクリーンで、いろんな人のポートレイトを作ったように、ひとつ手法を決めてしまえば、いろんな人がポートレイトを作りたがるかな、というような単純な発想でした。90年代後半に東京でやった展覧会では100名くらいの方が名刺を作りました。面白かったのは、名刺を作った方達だけでどこかで集まって名刺交換会をしたそうなんですよ(笑)。でも、チャッピーの匿名性自体には、今はむしろ、あまり拘らなくなっています」
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チャッピー自体の匿名性よりも、今は「チャッピー的空間」の方に意識がいっていると。
「どちらかというとそうですね。あとは、先ほどの話のように個人のアイデンティティとか、そういう方には興味が薄れてきたことは事実かもしれないです」
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つまり、この20年間でチャッピーの「匿名性」という部分に拘っていた頃から、「チャッピー的空間」に話が進んだということのような気がします。しかも、それは僕らの物理世界の比喩としてというより、「フレームレスな平面の世界」というものが別次元に実在するんだよ、ということの示唆になっているような気がします。とても刺激的なコンセプトだと思います。もう、「アート」って言っ切った方がわかりやすいんじゃないですか?(笑)
「いや、アートとして語るには、今やっている事はわかり易すぎるというか、ちょっと謎が少なすぎると思っています(笑)。作品自体はやりようによっては十分アートになり得るのかもしれませんが。ただ、やはり違うと言い張りたい(笑)」

 

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前回のハニカムのインタビューでも、“純”か“道具”かという言葉で、自分は“道具”のグラフィックをやっているとおっしゃっていましたが、チャッピーのシステム化というのは、そういう“道具”という意識もあったのでしょうか?
「そこまでいけるようなシステムを作るのは、きっとものすごく面白いことなんです。ただ、まだそこには辿りついていないですね。今回も予定の半分もできていなくて。システムを整えていけばいくほど、そのシステムに取り込まれちゃって広がりが出てこなくなる」
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なおかつ、そのシステムをより効果的に表現する表現手法が必要になってくると。
「そうなんです。それで一応、こういうシステムを使ってああいうグラフィック作品が出来てきますよ、と言いたいんだけれど、なかなか作品側がうまく出来てこないんですよ。それはもしかするとシステムに誤りがあるのかもしれないし……でも、やっぱり平面作品一つ一つよりも、そのシステムの方がより本質的ではあるんです」
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これだけのシステム、体系を持った上で仕事をしているデザイナーって他に誰かいますか?
「それはもう、たくさんいると思いますが、意外なところでディック・ブルーナなんかどうですか? 60年代全盛のVIシステムと現代のキャラクターシステムって意外と似ていますし」
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そうしたなかで、グラフィックデザインの大きな流れのある部分を自分たちも受け持っているという感覚はありますか?
「それはあまりないですね。日本独特の、アートでもない、イラストでもない、デザインでもない、だけどグラフィックみたいな、そういう中途半端な立ち位置でモノを作れるというのは日本の良さだと思うんです。だから、これがデザインとかアートとか言わずに、これ面白いでしょう、という感じはいいなと思っているんですよ。なかなか海外ではやりにくいですよね。アートです、と言い切らなくてはいけない」
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チャッピーに込められたコンセプトである、フレームレスな世界を暫定的にフレーム化したという事ですよね、今回は。
「暫定的にフレーム化、というのは、まさにその通りです。どこかで途中の研究報告を出さないといけないですから」