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THINK PIECE

Ryan McGinley “Reach Out, I'm Right Here”

“手を伸ばして、僕はここにいるよ”
ライアン・マッギンレーの写真とエネルギー。

12 9/18 UP

photo: Shoichi Kajino text: Naoko Aono

砂ぼこりをたてながら猛烈な勢いで丘を駆け降りてくる人。木から次々と飛び降りてくる男女。
目の下に青いあざをつくってどこかを見つめる男の子。ヌードで写っている人も多い。
ライアン・マッギンレーの写真には不思議なエネルギーが満ちている。
2003年、ニューヨークのホイットニー美術館で個展を開催。
当時25歳、美術館史上最年少の個展開催は大きな話題になった。
2008年にはアイスランドのロックバンド、シガー・ロスのアルバム・ジャケットに作品が採用され、
アート界以外でも注目されるようになる。
今年のニューヨークのチーム・ギャラリーでの個展のレセプションには人が集まりすぎて警察が出動する騒ぎに。
センセーションを巻き起こしている彼の初めての個展が東京で開催中だ。
しかも小山登美夫ギャラリーの“Reach Out, I'm Right Here”、
8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Galleryの“Animals”と2ヶ所同時開催。
インタビュー時のライアンは言葉を探してときどき沈黙する他はエネルギッシュにしゃべりっぱなし。
フォトセッションでいい光を見つけるとどんどんそこへ移動し、次々とポーズを決める。
はじけるような彼の写真の源泉は?

 

ライアン・マッギンレー

1977年、アメリカ・ニュージャージー州生まれ。
これまでにホイットニー美術館、MoMA PS1、カスティーリャ・イ・レオン現代美術館などで個展を開催。
作品集に「You and I」(Twin Palms Press社)、「Ryan McGinley: Whistle for the Wind」(リッツォーリ社)など。
ラリー・クラーク、ガス・ヴァン・サントら幅広い交友関係でも注目されている。
http://ryanmcginley.com/

 

──
全く違う2つの展覧会が開かれていますが、それぞれコンセプトを教えてください。
「“Reach Out, I'm Right Here”はGirlsというバンドのクリストファー・オーウェンズが書いた歌のタイトルからとったもの。誰かとつながることがテーマだ。僕も写真を撮ることで人々を結びつける、ということをずっとやってる。“Animals”は人間と動物を一緒に撮るシリーズだ。人は動物を見ると無意識にとてもハッピーになるし、動物をかわいがるのが好きだよね。YouTubeに猫の動画があれだけ大量にあがっていることからもわかると思うけど。一方で動物たちは無自覚に行動していて、コントロールできない。そこがすごく魅力なんだ」
──
動物を撮るのは、人間のモデルを撮るのとは全然違う体験ですか。
「人間はいつも自分が何をしているか自覚しているからね。でも僕は人間のモデルでも無意識に彼らが何かするように仕向けている。できるだけ予測不可能なことが起きるようにしているんだ。動物を使うのもその仕掛けのひとつだ。他のシリーズだと空中を飛んだり走ったり、丘をころげ落ちたり、フリスビーで遊んだり、他の人と体をくっつけたり、蛇を持ったりしてもらう。撮るときはたいてい大音量で音楽をかけている。こうやって感覚を歪ませるんだ。たくさんの人を一緒にして、人と人との間に思いがけない反応が起きるようにしたりもする。こうしてモデルを“壊して”いく。すると人生が広がっていくように思えてくる」
──
子どもの頃スケートボードに夢中だったそうですが、そうやって動きのある写真を撮ることと関係ありますか?
「もちろん。いつも動き続けていること、何かし続けていること、誰の許可も得ずにどこかから別の場所に移動すること、何度も繰り返すことがスケートボードの本質だし、それが僕のライフスタイルになってる。もともと僕はスケートボードのムービーを撮っていた。気に入ったカットが撮れるまで何度も同じテイクを撮るんだ。これだ、と思えるまでやる。それは今、写真を撮るときも同じだね」
──
何百回もシャッターを押すんですか。
「そう、いつもいろんなことを試している。60年代のアート・ムーブメントのひとつ、『ハプニング』みたいなものだね。人を集めてどんな化学反応が起きるか実験してみる。ただしそこには一定の方向性はある」

 

──
そのハプニングにはモデルも重要な役割を果たしているのでしょうか。
「その通り。僕がこうして、ということもあるけれど、いいモデルなら全く新しいものを一からクリエイトしてしまう。何かおもしろいものを見つけてきてくれる。そんなモデルとの撮影は2人の間のコラボレーションになる。モデルによってそれぞれ違う個性を表現してくれて、僕が予想もしなかったものを生み出してくれるんだ」
──
若い人たちをモデルに選ぶのはなぜですか。
「彼らにはたくさんの可能性とチャンスがある。それと同じぐらいカオスも混乱もある。他人とつながることも大人より簡単だと思う。すべてが初恋みたいに新鮮だし、何をすべきかを決める必要もない。毎日誰かとどこかにでかけて裸になってもいいし、3ヶ月旅に出ていてもかまわない。僕は実際には34歳だけど、精神年齢は18歳だと思ってる。大人になると戦争に反対することとか、若いときに大切だと思っていた何かを失っていく。子どもができれば責任も生まれる。若いから楽天的でいられるし、自分の体に自信がある。冒険のセンスがあって信頼してくれる人、そういう人が僕の作品には必要なんだ」
──
モデルを選ぶ基準はありますか。
「熱意があること、走ったりジャンプしたりできること、好奇心があること。どうしてヌードでポーズするのかを理解してくれる人。アーティスティックな、またはクリエイティブなところがあって、ポエトリーのセンスがあること。ちょっとクレイジーなぐらいがちょうどいい(笑)。僕が選ぶモデルは僕の兄や姉にどことなく似ている。僕は末っ子で、僕の母は7年間に7人の子どもを産んだあと11年、間があいて僕が生まれたんだ。だから僕はティーンエイジャーに囲まれて育った。彼らはほんとうに僕のヒーローだった。人生で起こるあらゆることを話してくれて、僕の面倒をみてくれた。僕にはほんものの両親のほかに7人の親がいたようなものなんだ」

「Mustard Meadow」
©Ryan McGinley Courtesy of the artist and Team Gallery, New York