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THINK PIECE

Masanobu Sugatsuke × Zenta Nishida

編集者・菅付雅信 × BRUTUS編集長・西田善太が語る、編集術。

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photo: Kentaro Matsumoto text: honeyee.com

『インビテーション』『エココロ』など、編集者として数々の雑誌を手がけてきた菅付雅信氏と、
『BRUTUS』の編集長を務める西田善太氏。
ともに青年期に、雑誌カルチャーに影響を受けたふたりは、〈編集〉という仕事をどのように考えているのか。
菅付氏の著書『はじめての編集』をきっかけに、〈編集〉のスキルを学ぶ。

 

菅付雅信(すがつけ・まさのぶ)

編集者/菅付事務所代表。1964年生まれ。法政大学経済学部経済学科中退。『月刊カドカワ』『カット』『エスクァイア日本版』編集部などを経て独立。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』『リバティーンズ』の編集長を歴任、現在はフリーマガジン『メトロミニッツ』のクリエイティヴ・ディレクターも努める。著書に『東京の編集』『編集天国』など。2012年1月から『アイデアインク』シリーズを朝日出版社と共同で編集し、第1弾として津田大介『情報の呼吸法』とグリーンズ編『ソーシャルデザイン』が大ヒット中。
http://www.sugatsuke.com/

西田善太(にしだ・ぜんた)

『BRUTUS』編集長。1963年生まれ。早稲田大学商学部卒業。博報堂のコピーライターとして自動車、酒類、電機メーカーなどを担当。1991年にマガジンハウス入社。『GINZA』『Casa BRUTUS』の創刊に関わり、「安藤忠雄×旅」「住宅案内」シリーズなどを手がける。『Casa BRUTUS』副編集長を経て、2007年3月より『BRUTUS』副編集長、2008年より『BRUTUS』編集長を務めている。最新号は15年ぶりとなる「集合住宅」特集。
http://magazineworld.jp/brutus/

 

──
1月に発売された菅付さんの『はじめての編集』(アルテスパブリッシング)をはじめ『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神Lマガジン)、『編集進化論—editするのは誰か?』(フィルムアート社)など、〈編集〉について書かれた本に注目が集まっています。なぜ〈編集〉にフォーカスをあてた本を書くことになったのでしょうか。
菅付雅信(以下: S )
「編集者という職業は、世間の人にはほとんど理解されていないと思うんです。僕自身も、10代前半の頃は〈編集〉という仕事を意識したことはなかったですし。でも10代の頃から本や雑誌が大好きで、1980年にマガジンハウスが『BRUTUS』を、小学館が『写楽』を創刊した時に、衝撃を受けたんですよ。雑誌は色んな題材が載っていながらも世界観が明確にあり、とにかくすごく面白かった。その2冊の創刊号が僕の原点です。大学1年のとき、カルチャー批評誌『360°』というミニコミを作って書店に置いてもらうと、当時『宝島』の編集長だった関川誠さん(現・宝島社取締役)や、吉本隆明の本を手がけていた弓立社の宮下和夫さん、当時話題のミニコミ『東京おとなクラブ』を手がけていたコラムニストの中森明夫さんなどから手紙が届いたんですね。その手紙がきっかけで、『宝島』でアルバイトを始めるようになったんです。当時の宝島編集部には現在は映画評論家の町山智浩さんや、『QuickJapan』などを立ち上げた飛鳥新社の赤田祐一さんがアルバイトやライターとして出入りしているような場所で、〈編集〉という仕事を現場で知りました」
西田善太(以下: N )
「僕は経験したことがないのですが、編集部のバイトから編集者になることができた、いい時代というか、めちゃくちゃな時代でしたよね」
──
菅付さんは、ある意味、恵まれた環境で雑誌作りのノウハウを学んだわけですね。そして、〈編集〉というスキルは、雑誌作りだけでなく、多方面に用いることができるというのが現在の菅付さんの持論として、今回の著書でも表れています。
S
「よく“編集者って何をやっているの?”と聞かれるんですが、説明が難しくて、困ってしまうんですよね。僕の母も、僕が何をやっているか未だに理解できていない(笑)。まだ、講談社やマガジンハウスに勤めていれば、具体的な仕事の内容がわからなくても、“有名な出版社の社員”として理解されるんでしょうけれど、20年以上フリーランスで仕事をしている僕の場合、いつまでたっても理解してもらえない。そのことに、さすがに居心地が悪くなってきたんですよ。なので、『〈編集〉とは何か』について書こうと。僕よりも上の世代の編集者たちも自著を出してはいるけれど、自分が作った雑誌や本のエピソードについて語るものが多く、〈編集〉そのものの方法論についてはあまり書かれていない。よくできた編集物を因数分解すると幾つかの方法が浮かび上がるので、それら〈編集〉のスキルは誰にでも身につけられるユニバーサルなものなんです。そのことを伝えたくて『はじめての編集』を作ったんです」

 

──
『はじめての編集』では参考誌として『BRUTUS』が選ばれています。『BRUTUS』はジャンルにこだわらず、「ラーメン」もあれば「旅」もあり、「糸井重里」というように人物にフォーカスする特集もある。けれど、すべての特集、すべての号が“BRUTUSのカラー”になっている。
N
「実は、表紙のロゴ以外に『BRUTUS』を『BRUTUS』として留めているものは、もはや、ないんです。言い方を変えれば『BRUTUS』で扱う記事は人であれ、旅であれ、もちろん、食であれ、他のどんな雑誌でも扱うことが出来るテーマです。ただ、その特集テーマの向かう方向だけは、『BRUTUS』にしか出来ないものにしている。例えば糸井重里さんの特集をした際には、編集部員を糸井さんの事務所に2ヶ月間通わせて、その2ヶ月間に起きたすべてを記録して作りました。こうした作り方は完全なオリジナルでしょう。それが『BRUTUS』らしさだと思います」

──
『BRUTUS』のアイデンティティとは扱うテーマではなく、その独自の編集的な手法である、と。
N
「そうですね。また雑誌は、編集者のキャラクターによる所も大きい。僕は編集長になって4年目ですが、ようやく自分らしい雑誌になってきたなと思います。特に2011年の特集を振り返ると、あえてちょっと外したとしても読者がついて来てくれる。『BRUTUS』と読者のチューニングが合っていると感じています」
S
「『BRUTUS』は特定のなにかについての雑誌ではなくて、編集力そのものが売りの雑誌ですよね。だからすごく〈編集〉の参考になるんです。〈編集〉には、言葉・イメージ・デザインが基本三大要素だと本で語っているのですが、『BRUTUS』はそのアンサンブルが上手いですね」
N
「僕は何かの事象を『こう見れば面白いんじゃないの?』 と、視線を変えて雑誌としてパッケージしているだけです。でも、その手法に関しては他の雑誌には負けないと思っています。例えば、ラーメンやうどんを特集する際、あえて余計なタイトルをつけずに、『特集・ラーメン、そば、うどん』だけにしてみた。そして、長澤まさみさんが天下一品でラーメンを食べている表紙ビジュアル。その表紙だからこそ、表現できることがあるわけです。そして『なぜ今、ラーメンを特集するのか』ということにも、必ず理由があります。80年代の『BRUTUS』でラーメンの特集はありえなかった。けれど、すでに『BRUTUS』というのがある種のブランドとなっているがゆえに、ラーメンを載せると多くの人が振り向いてくれるわけです。そういう読みは必要です。だから、2011年の『BRUTUS』を振り返ると、全体に震災の影響が出ています。作っている編集者が今を生きている以上、雑誌は時代を切り取っていくものなのです」