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1963年ベルギー出身、現在ゲントを拠点に活動しているミヒャエル・ボレマンス。もともとは写真を手がけていたが、30代に入って絵画に転向。以来、じっくりと制作に取り組んできた。彼のキャリアや名声に比して、作品点数はそれほど多くはない。完全主義者のボレマンスにとって、自身が完成と認めるものはわずかしかないのだ。その彼が、さらにそこから厳選した約30点の作品が原美術館で展示される。
作品の多くは人物像だ。彼らは絵筆で何かに色をつけていたり、泥か水の中をはい回っていたり、目を閉じて瞑想しているように見える。でも彼らが何者で本当は何をしているところなのかはよくわからない。これらの絵に特定のモデルはない、とボレマンスは言う。「もっと普遍的、象徴的なメタファーであって、(略)一般的な"人間"」*1を現しているのだと語っている。
彼が描く人物像はいずれも、私たちが見慣れた服装をしている。おそらく同時代の、そして画家の身近な人物を描いているように感じられる。でも彼らのふるまいにはどことなく違和感が漂い、その行為はほとんど意味をなさない。
「僕の絵に出てくる人物はごく普通のかっこうをしているから、何か物語がこめられているように思えるかもしれない。でもそこには、観客が期待しているような意味や物語はないから、そのイメージはいつまでたっても完結することはない。観客は二つに分かれた枝の間にいて、そこには張り詰めた何かがある。でもそれはゲームではない。リサーチのようなものだね」*2
今回の個展にはボレマンスが近年取り組んでいる映像作品も展示される。ボレマンスはそこで、絵画とは違う光や動きの効果を追求しているのだという。いずれにしても二つに分かれた道の真ん中でどちらに向かうのか、結論を急ぐ必要はない。まずはその道に立ってじっと、彼の絵や映像を見つめることから始めよう。
text: Naoko Aono
「ミヒャエル ボレマンス:アドバンテージ」
2014年1月11日(土)~3月30日(日)
11:00~17:00(水~20:00、月休)
会場:原美術館
東京都品川区北品川4-7-25
tel: 03-3445-0651
*1「Art iT」作家インタビューより。
*2「Art in America」インタビューより。
「Mombakkes II」 2007 年、36 x 30 cm、カンヴァスに油彩 ©Michaël Borremans Courtesy Zeno X Gallery Antwerp Photo by Peter Cox 個人蔵
「Automat (3)」 2008 年、 24.4 x 18 cm、板に油彩 ©Michaël Borremans
Courtesy Zeno X Gallery Antwerp and Gallery Koyanagi Tokyo 国立国際美術館蔵
「The Quest」 2006 年、22.3 x 30cm、板に油彩 ©Michaël Borremans Courtesy Zeno X Gallery Antwerp Photo by Peter Cox 個人蔵