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ひねった、というよりもひねくれた、と言いたくなるイギリスのユーモア。毎年発表される、イギリス現代美術最高峰を決定するとされる「ターナー賞」の顔ぶれを見ていてもそう思う。たとえば2003年に受賞したグレイソン・ペリーは女装の男性。もちろん授賞式にも女性の姿で現れた。妻子もいるので、ゲイではない。彼の作品は一見、ゴージャスな装飾の陶器の壺やきれいなキルト。でもよく見ると、花びらの一つ一つが叫ぶ女性の顔になっていたり、キルトのパターンがすべて胎児だったりとなかなかエグい絵柄だ。女装した自分自身が登場することもある。ポップカルチャー、暴力、偏見、ジェンダー、歴史の軋轢などがぎしぎしと音をたてて詰め込まれているのだ。
2013年のターナー賞にノミネートされたデイヴィッド・シュリグリーは惜しくも受賞を逃したけれど、ブラーのPVにアニメーションを提供していたりする人気者。彼の作品にかわいい犬が立ち上がってプラカードを掲げているものがある。プラカードには「I'M DEAD」の文字が。犬ははく製だ。おかしさと哀れみの情が混ざって苦笑いになる。
見慣れた、知らないものなどない(と思っている)日常を違う視点から見せるアートも面白い。椅子やテーブルなどどこにでもある"小道具"を使ってコントのような動きを繰り広げるのはウッド&ハリソン。手前の芝生は青々としているのにすぐそばの木は葉を落として枝だけになっているという、マグリットみたいな絵はジョージ・ショウのもの。いつもどんよりと曇って同じ光景が続くかに見えるイギリスの街で、彼らはこんな奇妙なことを考えているらしい。
これらの作品が一堂に集まる「プライベート・ユートピア」展はイギリスの公的な国際文化交流機関、ブリティッシュ・カウンシルのコレクションをまとめて紹介する日本では貴重な機会。約30組、一癖も二癖もある作家が揃う。展覧会タイトルからは人々がばらばらに切り離されてそれぞれの理想郷を生きている、そんなニュアンスが漂う。その状況に絶望するでもなく、かといって過剰な期待を抱くでもない、そんな大人な態度がまたイギリスらしい、と思うのだ。
text: Naoko Aono
「プライベート・ユートピア ここだけの場所」
2014年1月18日(土)〜3月9日(日)
10:00〜18:00(金〜20:00、月休)
会場:東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1−9−1
tel: 03-3212-2485
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/
グレイソン・ペリー
《ペニアン人の村》 2001年
Courtesy the Artist and Victoria Miro, London © Grayson Perry
デイヴィッド・シュリグリー
《アイム・デッド》 2010年
Collection Hamilton Corporate Finance
Image courtesy Kelvingrove Art Gallery and Museum © The Artist