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Mémoires Vives / Vivid Memories(生きた記憶)

Mémoires Vives / Vivid Memories(生きた記憶)

アートシーンを創造するカルティエ現代美術財団の30年。

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カルティエ現代美術財団の歴史は今から30年前、1984年にさかのぼる。その端緒は当時氾濫していたコピー商品への怒りだった。財団の創立者、アラン=ドミニク・ペランは知的財産権の侵害に抗議して、4000個の偽タンク メルヴェイユ ウォッチをロードローラーで押しつぶす。彼は友人のアーティスト、セザールにこの話をしているときに、アーティストの知的財産権も守るべきだということに気づく。そこでセザールに紹介された、フランスのジュイ-アン-ジョザスにあるモンセル城でアーティスト・イン・レジデンスを行ったり、アルマンやジャン=ピエール・レイノーの彫刻を設置するなどの活動を始めた。

1994年、カルティエ現代美術財団はパリのラスパイユ大通りにある現在の建物に移転する。空の青や庭の木の緑を映し出すこの建物はジャン・ヌーヴェルの設計によるものだ。透明でオープンなスペースは、アートを展示する空間としては大胆なものだった。その革新的な空間がアーティストを刺激し、新しいアートを生み出してきた。

たとえばサラ・ジーはこのカルティエ現代美術財団でインスタレーションを発表したことが転機になって、空間を縦横無尽に埋め尽くす大がかりな作品を手がけるようになる。マーク・ニューソンの実物大の飛行機「ケルヴィン40」を展示できるスペースもそうないだろう。それまであまり注目されていなかったアジアやアフリカのアートをいち早く紹介し、デヴィッド・リンチや北野武、アニエス・ヴァルダら映画監督にアート作品の制作を依頼するといったチャレンジもしてきた。モンセル城の展示室で開かれたルー・リードのライブは今や伝説だ。ラスパイユ大通りのスペースでも「ノマディック・ナイト」と題されたイベントでライブやパフォーマンスが行われている。アートだけでなく多彩なジャンルを横断する姿勢がアートをダイナミックに進化させていく。
 
「ヴィヴィッド・メモリーズ(生きた記憶)」展はカルティエ現代美術財団の30年の軌跡を振り返るもの。第1弾の会期は、5月10日から9月21日までで、期間中は、マーク・ニューソンの飛行機、パナマレンコの潜水艦、ロン・ミュエクの彫刻や三宅一生、アレサンドロ・メンディーニ、蔡國強らの作品がそれぞれ数週間から数ヶ月にわたって展示される。10月からは建築家のエリザベス・ディラーとリカルド・スコフィディオのディレクションでジャン・ヌーヴェルの建物が"変身"する。最新のテクノロジーを駆使した、建築とデザインの境界をあいまいにするような展示だ。アートの新たな地平を切り開いてきた30年間と、その次の時代が見える。

text: Naoko Aono

「Mémoires Vives / Vivid Memories(生きた記憶)」
開催中〜2015年3月
Fondation Cartier pour l'art contemporain
261, boulevard Raspail, 75014 Paris
Tel.: +33 (0)1 42 18 56 50
11時〜20時(火曜〜22時)
月曜、12月25日・1月1日休
入場料10.5ユーロ
http://fondation.cartier.com

「ヴィヴィッド・メモリーズ(生きた記憶)」展展示風景
Photo : Thomas Salva / Lumento