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モノクロームのひんやりとした画面が強烈な残像を残す五木田智央の絵。美術館では初めて開かれる個展は彼のミッドキャリア・レトロスペクティブ。会場では五木田の多彩な側面が次々と現れる。
五木田智央は1969年生まれ。イラストレーターとして頭角を現し、90年代以降のサブカルチャーに大きな影響を与えてきた。2000年に出版した作品集「ランジェリー・レスリング」でカルトな人気を得ている。近年では白と黒のモノクロームによるシュールな人物像がロサンゼルスやニューヨークで注目を集めてきた。
五木田はこの個展のために、約1ヶ月で10点の新作を描いている。下書きなしに描かれる抽象表現から発展した絵画だ。偶然に生まれた形は見る者によってさまざまに解釈される。
人体をモチーフにした作品は今年1月、ニューヨークのメアリー・ブーン・ギャラリーでの個展で発表した作品と、国内未発表の大作などだ。人体のシリーズの多くは顔が抽象的なパターンで覆われていたり、変形させられている。五木田は覆面レスラーやアフリカの仮面に惹かれる、という。顔を隠すことで違う人格が生まれるように思えるところも気になるのだそうだ。
この個展には彼のアイコンとも言える白と黒のシリーズ以外の作品も並ぶ。その一つが、2009年にロサンゼルスのHonor Fraser Galleryで開かれた個展「Heaven」で発表されたシリーズだ。青を基調に、水や空ににじみが広がったような不思議な形態が浮かび上がる。彼の絵画が生成されるプロセスが現れているようにも思える。
「CAIRO」は暖色系の色彩で描かれたペーパーワーク。あわせてこれまで一度も発表されたことのない、グラファイトによる素描シリーズ(2003年)も展示される。薄い紙に執拗に描き込まれた画面をよく見ると、アルファベットや矢印、マーク、顔の一部などがかすかに見える。五木田の原点ともいえる作品だ。会期中、五木田がCDのジャケットデザインを手がけるなど親交のあるミュージシャンのライブも開かれる。
この個展が彼にとってターニング・ポイントになるのか、それは時間がたってみないとわからない。でも何年か先に後悔することのないように、ぜひとも立ち会っておきたい現場だ。
text: yk
『五木田智央 TOMOO GOKITA THE GREAT CIRCUS』
会期:2014年8月31日〜12月24日
月曜休(9月15日、10月13日、11月3日、11月24日は開館、それぞれ翌日休)
9時30分〜17時
場所:DIC川村記念美術館
千葉県佐倉市坂戸631
tel. 0120-498-130
料金:一般1200円
http://kawamura-museum.dic.co.jp
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Courtesy Honor Fraser Gallery, Los Angeles
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