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今となってはなぜ旅に出ることになったのか、そのきっかけははっきりしない。アイヌ語地名の土地を見てみたい、そんな話をしたような気もする。旅の理由がわからなくなってしまったから、ここで旅はおしまい、ということもなく、どこまでも北へ行くことになった。「ここより北へ」展は石川直樹と奈良美智の二人が青森県・北海道・サハリンを旅した記録と、それにまつわるさまざまなものを見せる展覧会。見終わったあと、自分も北へ行ってみたくなるはずだ。
合計3度の旅で二人はそれぞれ写真を撮った。一緒に旅をしているのだから、似たような対象にレンズを向けることになる。でも二人の視線は少しだけ違っていて、写真にその温度差が出る。わずかに離れた二つのカメラで撮った2枚の写真を特殊なメガネで見ると画像が立体的に浮かび上がってくるように、二人の写真から奥行きのある景色が立ち上がってくるように感じられる。
会場には靴や日記、リュックサック、本、レコード、創作に使う道具も並ぶ。二人の北への旅と、創造と、日常を支え、ともに歩いてきたモノだ。彼らの体とその動きにあわせてほんの少し歪み、汚れたそれらのオブジェが旅の距離や時間を物語る。さらにさかのぼって二人の幼いころのアルバムも。石川直樹が撮った写真は今の彼の活動に続く、どことなく民俗学的な視点を感じさせるものだし、奈良美智のアルバムには、その後彼が大量に描き続けることになる絵画の断片がのぞいているようだ。
日本は南北に長い島国だから、北や南の端まで行くとそこがゴールのような気持ちになる。でも今回彼らが出かけた北の端にはかつてはアイヌの人々が住み、戦争で国境は移動した。二人の足跡をたどると"端"は行き止まりではなく、その先に存在し、過去の時代から培われてきた文化と日本の歴史や文化とが複雑に絡み合い、織物のように多彩な模様を描いているのがわかる。北の地で二人が何を考えたのかを想像しながら見たい展覧会だ。
text: Naoko Aono
「ここより北へ」
石川直樹+奈良美智展
会期:2015年1月25日〜5月10日
会場:ワタリウム美術館
東京都渋谷区神宮前3−7−6
tel. 03-3402-3001
11時〜19時(水〜21時)
月曜休み(5月4日は開館)
http://www.watarium.co.jp
石川直樹「ARCHIPELAGO」photo: Naoki Ishikawa ©Naoki Ishikawa
奈良美智「トナカイ飼い」 photo: Yoshitomo Nara ©Yoshitomo Nara
奈良美智「ニヴフの子 おかっぱ 」photo: Yoshitomo Nara ©Yoshitomo Nara