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ガブリエル・オロスコ展 −内なる複数のサイクル

ガブリエル・オロスコ展 −内なる複数のサイクル

笑いを誘発する“みんなのアート”。

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縦方向に三分割され、両端だけをつなぎ合わせた妙に細長いシトロエン。四方向から対戦できるけれど、中央に池があってうっかりすると"池ポチャ"になってしまう卓球台。猫缶を行儀よく載せて肩(?)を寄せ合うスイカ。何の意味があるのかわからないけれど、ちょっと笑えて、ふだんは味わえないような気持ちになれる。作者のガブリエル・オロスコはメキシコを代表する現代美術作家。東京都現代美術館で開かれる展覧会は、日本の美術館では初めての個展だ。

オロスコの作品の素材になるのはとりすましたアートとはおよそ縁のなさそうな道端のタイヤや掘っ立て小屋などだ。スイカの上にきれいに並べた缶詰など、子供のいたずらとしか思えない。4人で対戦できるピンポン台につけられたタイトルは「Ping Pond Table」、「ピンポン」と「ポンド(池)」の語呂合わせだ。アートというより、お茶目な悪ふざけといったほうが当たっている。

オロスコの父、マリオ・オロスコ・リヴェラも画家であり、「メキシコ壁画運動」の主要メンバーであるシケイロスのアシスタントを務めていた。メキシコ壁画運動とは富の集中に反対し、民主化、農地解放などを目指したメキシコ革命を大衆にわかりやすく伝えるために描かれた、巨大な壁画によるプロパガンダ運動のこと。革命の思想に共感して誰でも見ることができる街頭の壁画というパブリックアートに関わった父を持ち、自らも壁画を見ながら育ったオロスコは、自分もより多くの人に開かれたアートを作りたいと考えていた。が、当時と今とでは時代が違う。ガブリエル・オロスコが目指したのは壁画ではなく、違う方法で人々にアプローチすることだった。オロスコは観客が自分のアートを活性化させてくれるのだ、という。観客が作品についてさまざまなことを考えたり、感じたりすることで作品に存在意義が生まれる。作家のコンセプトを観客に押しつけるのではなく、見る者の多様な解釈がアートを成立させ、より豊かな世界を生み出すのだ。

そういうことだから展覧会場で観客は遠慮なく、好きなことを考えればいい。その発想が変わったものであればあるほど、作者であるオロスコは喜ぶだろうし、観客も楽しい。みんなが得するアートなのだ。

text: Naoko Aono

ガブリエル・オロスコ展
−内なる複数のサイクル

会期:2015年1月24日〜5月10日
東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1
tel. 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
10時〜18時(入場は17時半まで)
月曜、5月7日休(5月4日は開館)
http://www.mot-art-museum.jp/

1ガブリエル・オロスコ《La DS カーネリアン》2013年
変形した車 489 × 122 × 147cm
2ガブリエル・オロスコ《ピン=ポンド・テーブル》1998年
変形卓球台、卓球ラケット、ボール、水槽、ポンプフィルター、蓮
H76.7 × W424.5 × D424.5 cm
金沢21世紀美術館 蔵
3ガブリエル・オロスコ《コモン・ドリーム》1996年 チバクローム
4ガブリエル・オロスコ《猫とスイカ》1992年 タイプCプリント