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現代美術は転換期を迎えている。世界が近くなった今、ある国の経済破綻や政治・宗教をめぐるさまざまな衝突は遠く離れたところにも何らかの影響を及ぼし、アートの姿も変える。そのことがビビッドに伝わってくるのが京都で開かれている「PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015」だ。
メイン会場は京都市美術館。中央に蔡國強の作品がある。蔡の作品と書いたが、厳密には彼のプロジェクト「農民ダ・ヴィンチ」で収集した中国各地の農民が自作したロボットや「子どもダ・ヴィンチ」で子どもが身の回りの材料を使って作った作品だ。建築でもワークショップなどで一般の人々が合意形成に参加することが多くなっているが、アートでも似たような動きが起きている。
映像作品が目立つのも今回の特徴だ。その中でも6時間あまりという長尺の作品はスタン・ダグラスによるもの。コロンビア・レコードのニューヨーク30番街スタジオを再現したフィルムだ。舞台となる1974年はポルトガルがアフリカ植民地から撤退し始めた年であり、モハメド・アリがザイールでジョージ・フォアマンに逆転勝利した「キンシャサの奇跡」が起きた年にあたる。ステージで淡々と演奏を続けるミュージシャンの姿の後ろに現代史を転換させた事件が隠れている。
アート、音楽、映像を融合させるグループ「キュピキュピ」を主宰する石橋義正は観客が移動しながらある女性の人生を映画のように体験していくインスタレーションを展示。高嶺格は、ふだんは観客が入れない地下室に音と光によるインスタレーションを展開している。裁判所を模した、観客が裁判官と傍聴者、被告人の立場を行き来するようなインスタレーションは倉智敬子+高橋悟の作品だ。さらにはベトナム出身、2012年ヒューゴ・ボス賞を受賞したヤン・ヴォー、自身の祖母の記憶をもとにした作品を展示しているアリン・ルンジャーン、大規模再開発が続くメッキ周辺の様子を現場の移民労働者が撮った動画のコラージュを見せるアフメド・マータル、第三回世界貿易機関閣僚会議への抗議活動のスライド写真で構成したアラン・セクーラの「催涙ガスを待ちながら」などが続く。ウィリアム・ケントリッジやドミニク・ゴンザレス=フォルステルらビッグネームの示唆的なインスタレーションも見逃せない。
他会場では1950年代に建設された店舗併設の公団住宅「堀川団地」が面白い。空き室になった部屋でピピロッティー・リストやブラント・ジュンソーらがインスタレーションを展開している。小ぶりの団地の一室が妖しいアート空間へと変貌する。下鴨神社近く、高野川と賀茂川が合流する通称「鴨川デルタ」では毎時00分と30分にスーザン・フィリップスの"音のアート"が流れる。伝統とはまた少し違う京都の顔が楽しめる。
同時期には、国内外から14組の作家が参加する「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」(京都市内各所、5月10日まで)や、「横山裕一〈これをネオ壁画と呼ぶ〉集合する名士とけもの」展(京都国際マンガミュージアム、5月31日まで)などのイベントも。できれば数日滞在して、春の京都を満喫したい。
text: Naoko Aono
PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015
会期:開催中〜2015年5月10日(日)まで
会場:京都市美術館、京都府京都文化博物館 別館ほか全7会場
京都市左京区岡崎円勝寺町124
tel. 075 -771-4107
9時〜17時、月曜休(5月4日は開場)
一般1800円
http://www.parasophia.jp
KYOTOGRAPHIE: 京都国際写真祭2015
会期:開催中〜2015年5月10日(日)まで
会場:京都市内各所
http://www.kyotographie.jp
横山裕一〈これをネオ壁画と呼ぶ〉集合する名士とけもの展
会期:開催中〜2015年5月31日(日)まで
会場:京都国際マンガミュージアム
http://www.kyotomm.jp
ピピロッティー・リスト《進化的トレーニング(堀川―不安は消滅する)》 2014/15
ウィリアム・ケントリッジ《セカンドハンド・リーディング》2013
蔡國強《京都ダ・ヴィンチ》2015