15 7/15 UPDATE
温泉街をそぞろ歩く楽しみと、アートに出合う楽しみ。その2つを同時に味わえるのが「混浴温泉世界」だ。九州有数の温泉街、別府で2009年に始まり、3年ごとに開かれてきたアート・イベントの3回目になる。今回のテーマは「世界は不思議に満ちている」。ギリシャ三大悲劇詩人の一人、ソフォクレスの「アンティゴネ」からの引用だ。ところどころに異世界への扉が口を開けている、別府のそんなイメージから着想されたものだという。
「混浴温泉世界」のメインはツアー形式で行われる2つのイベントだ。1つはツアーでのみアート鑑賞ができる「アートゲートクルーズ」。枝史織、大友良英、クワクボリョウタ、蓮沼執太ら4人のアーティストが参加する。観客は導かれるままに使われていない建物や入り組んだ路地裏、誰もいない地下室など、普段は入れない場所で、アーティストがその場所と対話しながら作ったアートと対面することになる。空襲を免れたため残ったレトロな街並のあちこちに潜むアートから、時代の残り香が立ちこめる。
もう一つの「ベップ・秘密のナイトダンスツアー」は案内人の先導で、街のあちこちで繰り広げられるダンスやパフォーマンスに出合うツアー。週替わりでパフォーマーも会場も変わる。出演するのは黒田育世、Luminous Bulletら国内外で活躍するダンサーたち。アジア各国からの新鮮な才能も見逃せない。
元ストリップ劇場で行われる「永久別府劇場」は"アートのお化け屋敷"。フェスティバル期間を3つの会期にわけ、それぞれ現代美術家や照明デザイナー、パフォーマー、システムデザイナーらがおどろおどろしいアート空間を作り出す。小学生から大人まで楽しめる恐怖の館だ。こちらはツアー形式ではなく、予約不要で鑑賞できる。
営業中のデパートにもアートが出現する。トキハ別府店で開かれる「わくわく混浴デパートメント」では作品展示だけでなく、ライブペイントやパフォーマンスなど、いつも何か特別なことが起きる展覧会。遠藤一郎、松下徹、実験舞踏ムダイらが参加する。湯治文化が残る鉄輪地区では「貸間」と呼ばれる湯治旅館に海外のアーティスト2組が滞在、制作を行う。「KASHIMA」と名付けられたこのイベントで、何が現れるのか楽しみだ。
「混浴温泉世界」はこの回で1つの区切りをつけ、これからは形を変えて開催する予定になっている。このスタイルでの開催は今回が最後だ。10周年を迎えて新たな展開へと一歩を踏み出す芸術祭の転換点を見届けたい。
text: Naoko Aono
『別府現代芸術フェスティバル2015「混浴温泉世界」』
会期:2015年7月18日〜9月27日
会場:大分県別府市内各所(中心市街地/鉄輪地区)
TEL: 0977-22-3560
時間、定休日はプログラムごとに異なる
パスポート3500円
http://mixedbathingworld.com/
(クレジット)
クワクボリョウタ「LOST #7」2012年
大友良英「Ensembles 2010 共振 第7室」2010年 水戸芸術館
Photo by Motoyuki Shitamichi
MuDA
Photo by Koji Tsujimura