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レンズを通して現実を切り取り、写し出す。その特性から写真は独特の力をもつメディアとなる。今年で第4回目になる「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2016」はそのことを一際強く感じさせる写真展だ。「いのちの環」をテーマに、京都市内で14の展覧会が開かれる。
今回の話題の一つはベテラン、サラ・ムーンが新作を発表すること。パリの自然史博物館所蔵の植物標本や動物の剥製を収めたシリーズだ。ヴィンテージのように色あせた写真は薄い土佐和紙にプリントされ、裏打ちされずに吊るされる。わずかな空気の流れで揺れる写真は彼女のテーマである「時の美しさ、不確実さ、はかなさ」を体現する。
一見、羽毛と色とりどりのチップ状のものを組み合わせた美しいオブジェに見えるのはクリス・ジョーダンの写真。実際は親鳥が浜辺や海に浮かぶ色鮮やかなプラスチックのゴミなどをエサと間違えてひな鳥に与え、死なせてしまった、その死骸の写真なのだ。昨年亡くなったヨーガン・レールは浜辺に漂着したプラスチックのゴミを集めてランプを作っていた。醜いゴミから美を紡ぎ出すことは彼にとって「作ることを仕事にしている私の小さな抵抗」だったという。
元気な泣き声が聞こえてきそうな赤ん坊の写真は、生後1時間以内の新生児を撮ったティエリー・ブエットの作品だ。小さな体にエネルギーをみなぎらせた彼/彼女たちは体外受精によって生まれたもの。人間が生み出したテクノロジーによってこの世に生を受けた子供たちの姿に、両親や研究者らの思いが交錯する。
銭海峰の「緑皮車」は中国で最も安い電車を8年間かけて撮ったドキュメンタリー。塗装が緑色であることからこの名がある列車には、国外で爆買いする富裕層とはまったく異なる人々が乗っている。作者はホテルの電気技師として働く傍ら、写真を続けている。福島菊次郎は1961年、広島の被爆者を撮った写真集『ピカドン ある原爆被災者の記録』で日本写真批評家協会特別賞を受賞した。その後三里塚闘争やベトナム反戦運動などを追い続け、2011年の福島第一原発事故の取材にとりかかるも志半ばにして2015年、没する。彼の写真は生前に自作し、取材コメントなどを付したベニヤ製のパネルを中心に展示される。
京都は保守的に見えて革新的なところもある街だ。これらの写真は誉田屋源兵衛 黒藏や建仁寺塔頭 両足院など通常非公開の建造物や2016年にリニューアルオープンしたロームシアター京都などに展示される。千年の都に世界から先端の写真が集う。
text: Naoko Aono
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2016
会期:4月23日〜5月22日
会場:京都市内15会場
開館時間、閉館日は会場により異なる
パスポート3200円(「サラ・ムーン 1,2,3,4,5」(何必館・京都現代美術館)を除く)、その他プチパスポート、個別入場券(料金は会場により異なる)あり。
http://www.kyotographie.jp
サラ・ムーン
The one before last ©Sarah Moon
銭海峰(チェン・ハイフェン)
The Green Train ©Qian Haifeng
ティエリー・ブエット
Girl-9 minutes old. ©Thierry Bouët