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生きている限り、自分の身体からは逃れることができない。だから人間は自らの身体が気になる。ある集団の中で身体に関する共通のイメージができ上がると、さらにそれが個人を縛る。他者との関係性の中でもそれが重要な位置を占めることになる。そんな「身体」を巡るアートを集めたのがこの展覧会だ。
国内外6名の作家の顔ぶれも刺激的。アフリカとイギリスでインカ・ショニバレMBEはろうけつ染めの布を素材にしている。インドネシアのデザインを元にオランダ人が大量生産し、西アフリカで売られたというその布は作家のアイデンティティにも重なる。アピチャッポン・ウィーラセタクンはタイのコーンケン(東北地方)で育った。そこは貧しくて出稼ぎ労働者が多く、政治的には弾圧されることの多い地域だそう。彼は日本で今公開されている映画「光りの墓」の監督でもあるが、検閲が厳しいタイでは公開できないだろう、とも語る。
1984年、沖縄出身の石川竜一はカメラを手にしてわずか10年で2015年の木村伊兵衛写真賞と日本写真協会新人賞を受賞し、鮮烈なデビューを飾った。これまでに沖縄の人々のポートレイトや、極限に近い山行で撮った写真などを発表している。今回は初公開のポートレイトや風景と、数年にわたって彼が追ってきた2人の人物を撮った新シリーズを発表する。熱海を拠点にする田村友一郎は写真、映像、インスタレーションと幅広く活動している。この展覧会では近代ボディビルディングの歴史に着目した作品を見せる。ボディビルディングは19世紀のプロイセン王国で誕生し、アメリカを経由してGHQ占領下の横浜から日本に伝えられた。その歴史を踏まえた物語は、身体を巡る展覧会のテーマにふさわしい。
この他に展覧会にはマレーシア出身のイー・イラン、ベトナム出身のウダム・チャン・グエンが出品する。またパートナー・プロジェクトとして2017年1月26日〜2月19日に行われる「横浜ダンスコレクション2017」で世界初演作品を発表する多田淳之介と田村友一郎とがコラボレーションするワークショップも会期中に開催。多彩な身体が見えてくる。
text: Naoko Aono
『BODY/PLAY/POLITICS』
会期:2016年10月1日〜12月14日
会場:横浜美術館
神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
tel. 045-221-0300
10:00〜18:00
木曜休(11月3日は無料開館、翌日休)
一般1500円
http://yokohama.art.museum
インカ・ショニバレ MBE《さようなら、過ぎ去った日々よ》2011 年、シングル・チャンネル・ビデオ Courtesy the artist and James Cohan Gallery, New York
アピチャッポン・ウィーラセタクン《炎(扇風機)》2016 年、シングル・チャンネル・ビデオ・インスタレーション Courtesy of Apichatpong Weerasethakul
石川竜一《浦添、グッピーの手》2016年、インクジェット・プリント ©Ryuichi Ishikawa