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片岡義男『ナポリへの道』

片岡義男『ナポリへの道』

スパゲッティ・ナポリタンから見えてくる戦後の日本の姿

08 10/07 UPDATE

日本にしかない「スパゲッティ・ナポリタン」というものが、いかにして生まれ、発展し、そして広がっていったのか──ということに関して、様々な思考をめぐらせたエッセイが本書。

日本とアメリカ(や他の国)を比較した文化論には定評ある著者の作品の中では、最もとっつきやすいものだと言えるのではないか。まさに「ナポリタンから日本という国の本質の一端を見る」といった趣の内容。もちろん、その「日本」とは、戦後のそれだ。

著者いわく、ナポリタンの誕生とは、アメリカン・カルチャーと日本の「洋食」の合体から生まれた、とのこと。つまり、第二次大戦終結後、日本に進駐した米軍兵士の日常食「スパゲッティ・ウィズ・トマトソース」が変化したものでは......という推理と想像が、これもアメリカ食文化のコアである「ケチャップ」を媒介にして広がってゆく。実際に片岡少年は、畑のトマトからソースを自作してみようとしたことがある、というエピソードも語られる。

折しも時は、「オキュパイド・ジャパン」の時代──占領下の日本における、偶然の文化的出会いが「ナポリタン」を生んで、そしてそれは、高度経済成長の時代を経て、今日もなお、街の片隅で静かに生き続けている......平板なノスタルジーの書ではなく、文化と人との関係への深い洞察が、例の「片岡節」の名調子で、訥々と語られてゆく。

幸福な記憶を喚起するアイコンとしての「ナポリタン」──もちろん、読んでいるうちに、自分でスパゲッティ・ナポリタンを作りたくなることは請け合いです。

Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)

『ナポリへの道』
片岡義男(東京書籍)
1,365円[税込]