08 11/28 UPDATE
センセーショナルなのは表題だけではない。パスポートを所持しているアメリカ人は二割。「アメリカが日本に原爆を投下した」と知っているアメリカ人は49%。9.11テロ犯が信奉していた宗教は「ヒンズー教」。アルカイダはイスラエルのテロリストで、ヴェトナム戦争はアメリカの勝利。オリンピック発祥の地はアメリカで、この前の大会が開催されたのは「タイ」(もちろん、北京です)......こうした驚愕エピソードの乱打で、いかに「一般のアメリカ人の意識」がトンデモなのか、いや、それよりなにより、ブッシュ政権の8年間でいかにアメリカが「バカ」になったのか、そして、それを後押しした勢力がどういうものなのか──本書は解き明かそうとする。
著者は「映画秘宝」発起人の町山智浩氏。本書の各コラムも、映画やアメリカのTV番組の紹介を起点として、その背景にある「アメリカの病」について言及してゆく。つい先日、次期大統領の座をつかんだオバマが、「なぜ」総得票数ではマケインに対して薄氷の勝利だったのか? その背後にあるものが、単純な人種偏見だけではなく、「アメリカ病」としか言えないような「バカの病」であることが、豊富な事例で示されるのが本書。これを読んでいると、自分が知っているアメリカ人というのが、いかに少数派なのかわかる。沿海州、もしくは中部の都市周縁に生まれ育ち、高等教育を受け、オルタナティヴ・カルチャーにも造詣が深い......そんな奴らって、一体アメリカ人の何%なのか?
とはいえ、その「数%」のアメリカ人が、世界中で最もリベラルだったりもする。マイケル・ムーア曰く、「世界で最も左翼人口が多いのはアメリカ」なのだから(なにせ、総人口が多いので)。そして、そんな「アメリカの少数派リベラル」が火を噴くようにして「バカなアメリカ」と戦い続けた8年間の記録が本書だとも言える。町山氏が本書でネタにしたような、挑戦的なドキュメンタリー映画の数々や書籍などがその表象だ。この点、すこしうらやましくも感じる。そんな気骨あふれる左派なんて、この日本では見たことないからだ。あのブッシュ時代を経てなお、オバマを勝たせてしまうような人民パワーなど、どっこにもない!──と感じてしまうような日本の現状だからだ。
アメリカ人の「バカ」ぶりに笑いながら、誰からも「バカ」とすら指摘してもらえない日本の無明の闇こそが、うっすらと背筋を寒くさせる......そんなことすら思い浮かべさせる好著。
Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)
『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』
町山智浩
(文藝春秋)
1,050円[税込]