10 2/05 UPDATE
「堕落書生を成敗する銀杏返し組」、「春をひさぐ丸ビルハート団」、「女優志願がギャングの首領に」、「ガルボのお政」、「『バッド・ガール』の流行」......どうです、読みたくなりませんか? こうして抜き書きしているだけでもわくわくしてくるフレーズ満載。こんなもの、これまで読んだことがない! という驚きの一冊。
明治から昭和まで「魔都・東京」に実在した(?) 各種の不良少女やそのチームを、当時の新聞記事から洗い出し、マッピングしたという労作が本書。男子版だと、こうした作業は珍しくもない。各種やくざ映画(や、その元ネタ)、戦後闇市から愚連隊列伝などなど、まあ本当にいっぱいありました。しかし、ことそれが「女」となると、これまでは『肉体の門』系というか五社英雄系というか、あるいは野良猫ロック系というか......つまり、あくまで「男が男らしく支配する世界」の補強材料としてアウトロー女性像が描かれる、といった図式以上のものは、あまり記憶にない。が、ここに登場してくる女性たちのアナーキーさときたら!
そうなった理由は、本書はそのソースを「当時の新聞記事」に求めたところにある。たとえば英国の赤新聞(Sunなど)の伝統と同様、かつては日本でも新聞の第一義は「スキャンダラスな報道」であった。つまり、いまそこで起きた事件を「いかに扇情的に描くか」が主眼であったから、今日のような自主規制やら人権配慮やら官僚や大企業への追従やら──といった側面は、ほとんどまったく気にもしていなかった(模様)。ゆえに男社会の規範を見事に踏みにじる不良少女たちの暴れぶりですらも、新聞社の「面白ければそれでいい」との姿勢のもと、次から次へと(ブロウアップして)記事化されていったのだろう。そしてここに発掘されるべく、歴史の闇の中で息を潜めていたのだろう。
なかでもとくに「ジャンダークのおきみ」がやばい。「美人しか務めていない」と言われた大正期の丸ビルでナンバーワンの美貌にしてハンパない極悪さ! 誰かこれ絶対映画化してください──いや、漫画化のほうがいいか......ともかく、まさにバッドガールズの歴史から、ストリートから見た、異形のフェミニズム史といえる、面白すぎる一冊です。
Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)
『明治 大正 昭和 不良少女伝ー莫連女と少女ギャング団ー』
平山亜佐子・著
(河出書房新社)
1,995円[税込]