10 2/16 UPDATE
すでに各界で話題騒然の本書。そこは当然「オモロもの」としての評価が多数なのですが、かなりこれは、感動的な名著なのではないか。「デザインと人間」「いかに人類の普遍的精神生活に『文化』が不可欠なのか」といったことを、(もちろん、笑ったあとに)深く深く考えこまされてしまう。おそらく世界的にも類例のない、でっかい仕事を成し遂げてしまった一冊ではないか。
どういう内容かというと、おなじみ「紙で出来た(本当はFRP)自動車のトラバント」をはじめ、ベルリンの壁崩壊以前の東ドイツにて生産された「国営企業の工業製品」を、とてつもなく豊富な図版(素晴らしい!)と詳細な記述によって、カタログ調に紹介したもの。戦後、西独が生み出し続けていた「精密・剛健・国際Aクラスの一級品」の製品を、「こんな感じ、かな?」と模倣しようとして果たせなかった、共産主義下のゲルマン魂が泣かせます。それら製品の珍なる可愛さが心に残ります。東独のスポーツカー、バイク(は、まじかっこいい)、パソコン(?)、ラジカセ(!)などなど......ちなみに本書の第二弾は「生活用品編」で、そっちもすごい。東独のファッション誌、東独のポルノ(?)、ジーンズ、ニューロマ・バンド(?)──近年、東欧などの雑貨マニアは世に多いですが、どんな人もここまで網羅することは不可能だっただろう、「ひなびたデザイン」満載。これは冗談ではなく、クリエイターなら必見。独特の味わいのデザインの数々は、こうしてまとめて見ると、かなりクセになります。
そもそも、ここ日本も全体主義を経験し、理想的な社会主義国家と呼ばれた時代を経て、階層分化が進み、強大なる談合体制下において大手メディアが翼賛報道しかしなくなってしまった昨今、「東独の庶民と自分がどれほど違うのだろう」などと感じることもあったりなかったり。であるから、もしあなたが、こう思う人なら──「どんな状況下でも、自分は『デザインと文化』なしでは生きてゆけない」──そんな人なら、本書は人生においてこの先長く伴侶となる一冊となるかもしれない。ここにある「珍なる」デザインや製品が愛らしいのは、それが人間らしいからだ。勇気と向こう見ずさで、うろ覚えの夢を追った輝かしい記録だからだ。第三弾の発刊を強く希望!
Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)
『ニセドイツ〈1〉 ≒東ドイツ製工業品』
伸井太一・著
(社会評論社)
1,995円[税込]