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ボリス・ヴィアンのジャズ入門

ボリス・ヴィアンのジャズ入門

真性ジャズ・アディクトによる
ユニークなエッセイ集

10 2/22 UPDATE

09年は没後50年ということで刊行ラッシュだったボリス・ヴィアンですが、本書は、彼がフランスにおいてジャズ・レコードのライナーノーツ用に書いた多数の原稿を集めたというユニークなもの。収録されたテキストおよそ150点は初邦訳。さらに、翻訳者による詳細な注釈が嬉しい。まさに労作といえる一冊でしょう。

ところで、ここでの「ライナーノーツ」というのは、今日、CDのブックレットに記載されているものや、ペラ紙を折ってスリーヴに挿入したもの(いわゆる『投げ込み』)とは少々違って、つまり、LPレコードのジャケット裏面に書かれていたもの。80年代~90年代初頭のUKミュージシャンの一部がこのマナーを踏襲していましたよね(P・ウェラーのレスポンド・レコードやら、アシッド・ジャズ周辺やら)。これをまず思い出していただけると、より一層気分が高まります。
 
そしてジャズというのは当然アメリカ原盤が多いので、オリジナルは英語で書かれていたものを、ヴィアンが仏語に翻訳する──という行為が、この場合のライナー執筆の原義なのに──「それだけに留まらない」ところが味わいぶかい。跳躍した超訳。オレの見解。まるで一篇の詩のようなフレーズ。諧謔。または「真性のジャズ・アディクト」としての見事な評論(!)まで......日々泡のバックボーンとなっていただろう彼のジャズ愛が全編にほとばしっているところが、すごくいい。
 
今日的な視点で見ると、またいろいろと興味ぶかい。なぜフランス人はあれほどラップが好きなのか? なぜダンス・ミュージック以外は(ほとんど)うまく自前で実現できないのか? なぜデニーロだったら「いつまでもトラヴィス」で、イーストウッドなら「いつまでもハリー」なのか? なぜフィルム・ノワールがお家芸となったのか?......etc。
 
デューク・エリントンを語る筆に、第二次大戦後のパリの、おそらくは小汚いクラブやカフェに紫煙とともに満ち溢れていただろう熱気の残り香すら嗅ぎとれるような、そんな気分にさせられる貴重な一冊。

Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)

『ボリス・ヴィアンのジャズ入門』

ボリス・ヴィアン著 鈴木孝弥・訳
(シンコー・ミュージック)
2,940円[税込]

http://www.shinko-music.co.jp/