10 3/11 UPDATE
まあ明らかにスキマ企画であり、安易だなあ、安直でしょうそれは、と即座に思ってしまう......ものの、手にとってしまったが最後、抗えない「ナニか」のせいでページを繰る指が止まらない! という一冊。
本書はその名のとおり、レンタル or セル用VHSビデオテープのパッケージ・アートを集めたもの。さらに言うとこれは、外国産VHSによくあった箱型の紙スリーヴがその蒐集の対象となっている。その名品(?)をがんがんブツ撮りして、レコジャケ写真集のように見せてしまう、というのがコンセプト。副題が「ポータブル・グラインドハウス」となっているように、おもにB級アクション映画やSF、ホラーやエロ系などのグラフィックーーつまり「これでもか!」とアオるグラフィック・アートーーが、なんとも味わい深い。セレクションも渋い。『バニシング・ポイント』のこんなジャケははじめて見たぞ! とか、『ターミネーター』とチャック・ノリスの『地獄』シリーズの2コ1ビデオのジャケ! などなど、頑張っています。
そんな全編をつらぬくのが、「DVD(or BD)の薄ケースじゃグッとこないんだよ!」という心の叫び。マット系の用紙を使って「紙パッケージのような質感」の上に写真を掲載、表紙はもちろんVHSテープそのもの! という、ある種の人にとっては、「とても他人とは思えない」ナニかが狂い咲いた情熱の一冊が本書。
アメリカ人の友人の話を聞くと、やはり「街のビデオ屋」はほぼ壊滅状態だという。レコード店はもっと早く消えて、独立系で、かつ優良顧客を抱えているところだけが生き残っている状態だという。もちろんネットで何だって買えるし、ビデオ(おっとDVD)だって借りられる。しかし、「街のコミュニティ・スペース」としてのレコード店やビデオ店の消滅を惜しむ声は多い。日本もどんどんそこに近づきつつある。
かつて駅前商店街に必ずあったあやしげなビデオ店、ときに洋物(のポルノとか)の違法コピーも陰に並べられていたような店を憶えている人。あるいはもっと直接的に、NYに行ったら <キムズ・ビデオ> あたりでごっそりいろいろ買い込んできたような人......本書の「失われたアート」は、そういった人々のハートを射つはずだ。それは単純なノスタルジーかもしれない。しかしですね! 「失いたくない」ものに情熱燃やしてどこが悪い! と、まるでつぶれかけの街のビデオ屋にボンクラが集まって決起したような(って、そんな映画ありましたね)、そんな本書を無視することは、とても僕にはできない。あなたが同志だったとしたらば、ぜひ。
Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)
『Portable Grindhouse:
The Lost Art of the VHS Box, Vol. 1』
Jacques Boyreau 著
(Fantagraphics Books)洋書