10 3/24 UPDATE
すこし前に出た本なのですが、口コミで(?)静かなブームとなり、店頭でも手に入りやすくなりました。これはちょっと、手にとっておくべき、かなりすごい本だといえるでしょう。
大正4年から昭和18年にかけて発行されていた雑誌『建築写真類聚』に掲載されていた建物写真、内装写真を集めたものが本書なのですが、その数がすごい! なんと全800点。さらに言うと、撮影された時期がすごく重要。関東大震災を経て「モダニズム建築」がどんどん導入されてゆく過程を「建物探訪」的見地から、ほぼ全角度的に網羅しているといっても過言ではない。
であるから、アールデコもロシア・アバンギャルドも、バウハウスもライトも──もちろん、そのほとんどすべては「モドキ」なのですが、これほど豪華絢爛に東京じゅうを彩っていたとは! という衝撃を受けること必至。いま現在の東京の街が猥雑にして醜い(からこそ面白い、という見方もありますが)というのは国際的常識ですが、いやはや、「かつては」ここまでのものが揃っていた夢の大都会だったとは、いまのいままで、実感することはありませんでした。すんませんでした! とあやまりたくなる(誰に?)、そして、ああこんな街に暮らしたかったなあ......としみじみ思わせられる「失われた建築」が満載されているのだ。
バリエーションがまたすごい。まずは第一部「街」には全十二章。映面館、劇場、遊園地、百貨店といった大物から、カフェ、レストラン、そのほか飲食店、美容院に理髪店、各種商店(衣料品店から食料品店まで)、これでもかと登場。第二部「住い」では、洋館はもとより、「近代住宅」(これが泣ける!)、近代の和風建築から必殺・同潤会アパートまで......戦争のみならず、スクラップ&ビルド(?)とかで、完璧に破壊されてしまった「幻の近代建築都市」としての東京を、まさに「空前のスケール」で伝えてくれる一冊だといえるでしょう。もし東宝の特撮チームがこのコラムを読んでいたらば、『三丁目の夕日』とかはどうでもいいから、あなたたちは義務として、いますぐ総力を結集して、本書におさめられた「東京の街」をCGで再現するための映画を撮るべきだ!──と、心の底から強く思う。
Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)
『写真集 幻景の東京
-大正・昭和の街と住い-』
藤森照信 初田亨 藤岡洋保・著 書影・編著
(柏書房)
6,090円[税込]