10 5/11 UPDATE
これはアイデア賞の一冊でしょう。山田風太郎の名著『人間臨終図巻』、その「バンド版」といえるのが本書。つまり古今東西のバンド/ユニットの「解散の理由」「解散に至った経緯」などの事例を集めに集めて列記したというもの(総数200)。だからですね、ベッドサイドに置いて、寝る前にパラパラとつまみ読むのに最適──などと思っていたら、キュアーの「辞める辞める詐欺」やら、ピーター・フックの「勝手に解散宣言」やらを眺めているうちに、ついつい読み進んでしまう......という一冊でもある。いや、じつに面白い。
まず、登場バンドのジャンルが無闇に幅広いのがいい。クレイジーキャッツからRC、ツェッペリンからジザメリに制服向上委員会に黒夢に狩人(!)まで、それら一切合切が「デビュー年度」を唯一の基準として、ディケイドごとに分類され、並列に配置された構成が、シンプルながら効いている。カジャグーグーの隣に突如チェッカーズが登場したりするので一切気を抜けない(?)。また、解散後の再結成動向についても、現時点までの動きがフォローされている点も正しい。というか、そこにまた深い味わいがある。ルースターズおよびアナーキーの男泣き血煙り街道、そして何度読んでも全貌が把握できない複雑怪奇なハウンドドッグ......などなど「一度解散したらハイ終わり」とはいかないところに、人生デコボコ道なりしナニかが凝縮されている。個人的に最もいらいらしたのがフリッパーズ・ギターの項で、解散理由についてのらりくらりとかわし続ける小山田圭吾の発言が引かれているのだが、なんだこのインタヴュアーちゃんと仕事しろよ!と思って注釈を見たら、92年の『宝島』で俺がやったものでした(汗)......というわけで、ポップ・ミュージックにすこしでも興味がある人だったら、気になっていたトピックや、はじめて知って、そして記憶に残るエピソードのいくつかはここで発見できるのではないか。
それにしても、膨大なる事例を目にした上で思うのは、つまるところ「バンド解散の理由」というのは、ほとんど一つの要因から生じると言えるのだなあ、という素朴な感慨だ。もちろん、表面的には千差万別だろう(だから本書がある)。音楽性の相違、金銭問題、女、クスリ、兄弟喧嘩......しかしそのほとんどは、煎じ詰めれば「人間関係ゆえ」別れざるを得なかった──そうなるのではないか。そもそも「Band」という語には、人と人とが絆をむすぶという意味がある。実際問題、人と動物や無機物がバンドを作る例はあまりない(たまにありますが)。ならば、それら人の集団が「disbanded」する瞬間には、「人間どうしならでは」のさまざまな軋轢や駆け引きが垣間見えることになる。そこに群像劇が生まれる。本書の読みどころは、まさにそこにある。
人間が作るからこそ、僕らは音楽を、文化的創造物を好きになる。人間が寄り集まって、夢を語り合い、滑ったり転んだりするから、僕らは「バンド」という形態のチームが轍のように残すストーリーに強い興味をいだく。一見スキャンダラスで、きわものっぽい視点から編まれたようにもみえる本書だが、読み終えたあとにしみじみ湧いてくるのは──こう言うと、ちょっと鼻につくと思うんですが──人間っていいなあ、面白いものなんだなあ、ということだった。やっぱみんな、生きてるうちにバンドのひとつやふたつ、やっとくべきでしょう!と、そんなことを強く思った。
Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)
『バンド臨終図巻』
速水健朗 円堂都司昭 栗原裕一郎 大山くまお 成松哲・著
(河出書房新社)
2,520円[税込]