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サイケデリック・ムーズ

サイケデリック・ムーズ

国内初の体系的サイケデリック・ロック・ディスク・ガイド

10 5/26 UPDATE

「国内初の体系的サイケデリック・ロック・ディスク・ガイド」なのだという。言われてみれば、そうかもしれない。それによく考えてみると、「サイケだね」などとじつに気軽に、日常的に口にしていながら、「ではお前が規定するサイケとは何なのか!」と大日本帝国憲兵調に詰問されたならば、ええっと......と口ごもってしまう人も多いのではないか(俺)。
 
 しかしそれは俺が悪いのではなくサイケが悪い。だって、そうじゃありませんか? 「サイケデリック」というのは、ジャンルとしてとらえることがじつに難しいものだと思うからだ。たとえばピンク・フロイドはサイケから発して、プログレの雄となり、史上最大規模のスタジアム・バンドとなった。ジャニス・ジョプリンだってサイケ入ってたし、ジミヘンだってサイケ抜きには考えられない。ゆえに、「メタル」「パンク」「カントリー」「ブルーズ」、あるいは「ヒップホップ」「ハウス」などなど、その構造やら文法やらで、ジャンル分けやらカテゴライズやら「しやすい」ものの対極にありながら、でもだれがどう見ても(聴いても)「これはサイケじゃん!」と思えるものがある......って、じゃあ、それって何なのよ!?──というところを、しっぽりずっぽりと解き示してくれる全400タイトルが本書に登場。CDで購入しやすいものが中心なのも嬉しい。シルヴァー・アップルズとシャッグスが並んでいたりすると、「なるほど!」と膝を打つことしきり。これであなたも(俺も)サイケ一年生になれること請け合い。
 
 レコード業界の不況スパイラルが底なしに続く中、レコード・ショップ・チェーンであるディスク・ユニオンがこうした書籍を出した意義は大きい。すべての音源がデジタル化され、ネット空間にアップロードされるまでは、ハードコピーをコツコツと狩り集めるという至福の時間が我々にはまだ許されている。ゆえにサイケという「巨大な未踏大陸」の歩き方指南を目指した本書の心意気にはぐっときた。表紙はゆら帝の坂本慎太郎・筆。絞り染めTを着る前に読むべし!と言い切れる魂の一冊。

Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)

『サイケデリック・ムーズ PSYCHEDELIC MOODS A Young Persons Guide To Psychedelic Music USA/CANADA Edition』
 
山中 明・編著
池部 幸太 柳内 誠 島崎 涼・著
坂本 慎太郎・ジャケットデザイン
(DISK UNION)
2,100円[税込]