10 6/25 UPDATE
本書を書店で見つけたとき、あまりに直接的なタイトルに軽い驚きをおぼえて、そして手にとったら、その内容はさらに驚きだった。これは、すごい! まさに書名どおり、その「秘密」を解き明かしたうえで、それを「実践」してしまうためのメソッドがこまかく解説されている。そのうえ、そのメソッドは、著者が自らの体験と考察をとおして確立したものでもある。信憑性がある。世間では「読めばぐんぐん痩せる」とかいう書物が売れているそうだが、その例に習うなら、本書はまさに「読めばぐんぐん『黒人のリズム感』が体得できる」──そんな魔法のような一冊なのだ。もちろんまだ僕は「体得」できてはいないが、「練習すれば、きっとやれるはず」と思わせられるだけの内容なのだ。
著者の通り名は「トニーティー」。日本で運動生理学の修士までおさめたうえで、プロダンサーとなるため渡米、結局はマイケル・ジャクソンほかと共演するなど、大成功をおさめるのだが、そんな日々のなか、「黒人特有のリズム感というのはなんなのか」と考えつづけ、ついに「だれでもそれを身につけられる」というメソッドを開発。アフタービートやタメといった「リズム解釈」からはじまり、「体幹でビートを保持し、複雑なアレンジをおこなう能力」、つまり「インターロック運動」を可能とするために、初歩の初歩から解いていったものが本書。これが「体幹革命」であり、「それまで見えてこなかった音の世界、動きの世界が見えてくる」ようになり、「神経と運動という供応能力が高まっていく」のだという。ダンサーなら全員必読はあたりまえ。球技全般はもちろん、きっとスケーターや格闘家などエクストリーム系アスリートにもきわめて有効だろうし、バトルDJ系、およびミュージシャンも必携なのではないだろうか。
本書は、99年に発刊され、七刷(!)を重ねた名著に改訂をくわえた新版。「こんなことを、ここまで考えて体系化したのは日本人だけ!」なのは間違いない。また、読み物としてもひじょうに面白く、「日本人ダンサーなんて」と見くびられた著者が実力でアメリカ人に勝利していく様は、ほとんどマス大山の『世界ケンカ旅行』。あるいは本書は、ブルース・リーの『タオ・オブ・ジークンドー』のようでさえある。体幹をきたえると、健康にもよく、急なアクシデント(接触事故など)の際のダメージ軽減にもなるという。ちょっとこれは、試してみたくなりませんか?
Text:DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
『黒人リズム感の秘密 改訂版』
七類誠一郎・著
(郁朋社)
2,100円[税込]