10 8/05 UPDATE
現在活躍中の写真家に「子どものころの通学路」を再訪してもらい、そこを撮ってもらう──という企画から生まれた写真集シリーズがこれだ。各写真家につき一冊、大判のブックレットに作品を収録。第一期ということなのだろうか、計13冊、13人の写真家が「通学路」を撮った作品集が現在発売されている。版元によると、日本全国47都道府県を網羅する予定であるという。
この企画、シンプルな発想のようでいて、面白い試みとして成立しているように思える。「大人になった自分」が、子ども時代の記憶と対峙するときの、その人それぞれのスタンスが、作品にあらわれるからだろうか。通学路を地道に這うように撮る人あり、道路脇の風景を(よそ見をするように)撮る人あり、現在の小学生を撮る人あり──その手法もタッチも、まさに「その人それぞれ」で興味ぶかい。また同時に、「なにもかも、どんどん変化していってしまう日本」という外側の状況もあるわけで、それとどう付き合うのか(付き合わないのか)といった要素もからんでくる。日本の風景をどう撮るか、と考えた際に、いい効果を生み出す可能性のある、すぐれた企画だったのではないか。
たとえば、多くの人が(たぶん)そうであったように、インテルMacに乗り換えたとき、僕がさいしょにやったのは、「グーグル・アースによる、かつて住んでいた場所の探索」だった。通っていた中学校も見てみたのだが、あまりにもあの当時とまったく同じその造形に、思わず校舎のガラスを叩き割ってしまいたく──なったわけではないが(本当はなった)、「視線」という「いまの自分」に属するものが、ある条件で限定された過去に向けられた際に起動する化学反応のようなものがあって、その対象が「学校」というものであれば、なおさらそれが強烈にはたらくというところはあるのではないか。当シリーズは、そんな化学反応を意識しつつも、「通学路」という、あらかじめ寄り道やサボりなども可能性として秘めたる、半自由的な状況をお題としたところが、いい企画として結実する源となったのだと思う。
全13冊のうち、僕が最も気に入ったのは、栃木県の「通学路」を撮った渡辺慎一の作品集。水を張った田んぼと無個性な建て売り住宅が、淡い色調のもと、じつに美しいコントラストを成している。次点は、横浪修(京都府)、鈴木理策(和歌山県)、熊谷隆志(岩手県)。そのほか、佐々木知子(愛媛県)、笹口悦民(北海道)、浅田政志(三重県)、田尾沙織(東京都)、竹内裕二(広島県)、中川正子(千葉県)、中野敬久(埼玉県)、松尾修(長崎県)、松岡一哲(岐阜県)の計13人の作品集が発売中。
Text:DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
『通学路』シリーズ
(PLANCTON)
各1,500円[税込]