10 8/10 UPDATE
僕自身も一部関わっている本なのだが、だからこそ、ここでお薦めしておきたい。
91年にデビュー、99年にフロントマンの佐藤伸治が他界して、いったん活動を休止したバンド、フィッシュマンズの、はじめての「公式」本がこれだ。体裁は「ファンブック」ということで、関係者やメンバーの証言、彼らに影響をうけた人々の発言、佐藤語録にレアグッズの図版──と、雑誌的なバラエティに富んだ作りとなっている。くわえて、フィッシュマンズの活動を振り返る際の最強の資料でありながら、宣伝用に作られたものだという宿命ゆえ、まぼろしと化していた小冊子『宇宙語 日本語 世田谷語辞典』復刻版と、「在籍した全メンバー&ZAK&マネージャー植田さん」の撮りおろし座談会を収録したDVDが付録についている。そういう盛りだくさんな一冊だ。
聞くところによると、フィッシュマンズのCDは、いまだに足が止まらず、売れつづけているそうだ。つまり、新しいファンが増えつづけているということだ。これは僕としては感無量であると同時に、不思議な気分にもなる。だって、なにをやっても、どうやっても、一向にCDのセールスが上向かない──というのが、活動期の彼らのキャリアのおよそ3分の2を占めていた事実なのだから。いまの若いファンのなかには、「フィッシュマンズって、売れてなかったんですか?」と、じつに驚いた顔をする人がいるのだが、いやほんと、ほんとなんですよ。売れていませんでしたねえ。
であるから、こうした本がいま出るということが、僕にはひじょうに面白く思える。発表当時は2万枚しか売れなかったのに、「オルタナ少年少女の永遠のマスターピース」となった、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの諸作などを思い出してしまう。そんな作品を残した日本のバンドは、フィッシュマンズが初なのではないか。
縁あって、僕は彼らのまわりをふらふらするという経験を得た。そして思うところあって、あれ以来、フィッシュマンズについては『米国音楽』(休刊中)に連載を書く以外のことは、ほとんどなにもしなかった。今回は、なんというか、同窓会に参加するようなつもりで、小文を寄せさせてもらった。あと、三田格さんと対談もした。じつはこのときが三田さんとは初対面だったのですが。
読み手としても、僕はこの本を楽しんだ。とくに関係者の発言が、それぞれとても面白かった(これも同窓会的ですね)。なかでも、もっとも衝撃をうけたのは、植田マネージャーの一文で、「佐藤のお兄さんが暴走族だった」というのは、なんと奴の口から出任せの、真っ赤な嘘だったのだというのだ!──僕はいまのいままで、この本を読むまで、完全に騙されきっていた(だから当時、ROジャパンの原稿にもそのとおりに書いてしまった......)。三田さん、マネジメント会社 <りぼん> の奥田社長も、この嘘、ずっと信じていたのだそうだ。
そんなわけで、シリアスな話もいっぱい載っているのだが、僕にはなんとも、とぼけた笑いというか、なんとも「まとまらない感じ」──つまり、フィッシュマンズらしい味わいが満ちあふれているように思える一冊だった。この感じ、できるかぎり多くの人につたわって、パーティーに参加するような気分で読んでもらうといいなと思う。
Text:DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
『公式版 すばらしいフィッシュマンズの本』
(INFASパブリケーションズ)
3,990[税込]