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「カンバッジが語るアメリカ大統領」

「カンバッジが語るアメリカ大統領」

カンバッジを眺めつつ、アメリカの歴史に思いを馳せるヴィジュアル年代記

10 9/15 UPDATE

記憶に新しいところでは、オバマ・キャンペーン時のヴィジュアル作品の数々がありましたが、もとよりアメリカ大統領選といえば、「ヴィジュアル・キャラクター」と「スローガン」は切っては切れぬもの。その二つが見事に融合したキャンペーン・グッズの主力選手ともいえるのが「カンバッジ」。写真や文字が印刷された円形の金属プレートの裏にピンが付いている、あれだ。本書はカンバッジを蒐集しつづけていた著者が、米大統領選にかんするものをピックアップ、時系列に沿って整理し、解説したいったもの。「ピックアップ」とはいっても、全400点ものバッジが掲載されているのだという。また、ほぼ2ページに一度の割合で、「カンバッジ」の主であるそのときの大統領候補と、時代背景などを簡潔に説明する文章が掲載されているという点で、本書は、ヴィジュアルを中心に見ていく、アメリカ現代史としても読むことができるだろう。

ところでこのカンバッジ、最初に登場したのは19世紀末だったそうだ。そして大統領選などで本格的に使用されはじめたのが1940年代。かくして、アイクからオバマまで、歴代大統領と、そのときに競ったライバルたちのカンバッジが、項目ごとに並んでいく。「ネガティヴ・キャンペーン」用のバッジもある(ブッシュはテロリスト、とかいったやつだ)。個人的に新発見だったのは、いわゆる「デザインされた」カンバッジの元祖が72年の民主党候補マクガヴァンだった、ということ。また、この時期のニクソンがいかに強かったか、ということは知っていたつもりだったのだが、それが「カンバッジの出来のよさ」として、本書で実感できる。その逆に、「あまりにも出来が悪い」バッジしかないというところで、ああ負けて当然だったのだな、と感じさせられるのが00年のゴアと04年のケリー(やる気も元気もない)。バッジ上ではレーガンとGWブッシュが、じつに快活明朗で、魅力的であるところもおそろしい。神秘性まで漂うのは、もちろんJFK。ロバート・ケネディも渋い。しかし、僕がもっともすぐれたデザインだと感じられたのは、76年のカーター・バッジの数々だった。このグリーンな感じ、いまでもかなりいけるのではないか。

と、見ているうちに、自分でもひとつ作ってみたくなる(何を?)ような、楽しい一冊だ。世界史が弱点だと思っている受験生にも、本書はお薦めできるのではないか。カタカナと年号の羅列の奥にある、きわめて人間くさい表情を、これらカンバッジは能弁につたえてくれているように思えるから。

Text:DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)

「カンバッジが語るアメリカ大統領」
志野靖史・著
(集英社新書ヴィジュアル版)
1,155円 [税込]