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「ビジネス書大バカ事典」

「ビジネス書大バカ事典」

ありとあらゆる「ビジネス/自己啓発本」を
バッサバッサと叩き斬った、痛快?な批評本。

10 9/21 UPDATE

つねづね僕は、時間つぶしをするとき、書店のビジネス書コーナーを愛用している。ビジネス・メールの文例、企画の通し方、できる人になる方法、あいさつ上手は出世する、整理整頓術、手帳はこう使え、収入10倍増も夢じゃない、そのほか、いろいろ......いや本当に、多種多様な本がある。そして、そのほとんど全部が、自分の人生には、まったく関係がない。僕にとっては無駄な情報。それらが、熱く、力強く、ありとあらゆる口調で鼓舞されつづけているのが、ビジネス書コーナーというものなのだ。キー・ワードは「現世での成功」。そもそもデール・カーネギーのせいだと思うのだが、「ビジネス書」と「自己啓発書」が、基本的に混同さているのも、見逃せないポイントだ。そんなもろもろが興味ぶかく、おかしみを感じているうちに、効果的に時間がつぶれる。

そんなビジネス書コーナーで、最近目につくのが「ビジネス書の紹介」をする本、というジャンル。DJがレコードを薦めるように(?)、「ビジネス書、これだけあれば大丈夫な10冊」とかいうやつだ。本書はそんな一冊のふりをしながら、「ビジネス書」および「ビジネス書のふりをした自己啓発本」をバッサバッサと叩き斬る!というもの。約100冊の類書を俎上にのせて、「だれでも」「必ず」「成功する」「金持ちになる」わけがないだろう!と、それぞれの安直さや矛盾点を指摘していく。ひいては、ビジネス書著者の軽はずみな記述から、作家としてのご当人の資質にまで懐疑の目をむけて......という、毒舌かつ、抱腹絶倒な一冊。勝間和代、苫米地英人、本田健といった、この業界のスターが、ばっさりといかれてしまっています。文体がかなり「テヤンデエ」調なので、そこに乗れるかどうかが分かれ目になるとは思いますが、もし乗れたなら、かなり痛快なライドを楽しめるはず──もちろん、あなたが上記著者のような「ビジネス書/自己啓発書のプロ」の愛読者以外であれば......というわけで、このジャンルのバブルっぷりを、言葉によって粉砕しようとしている、頑張っている一冊が本書だといえる。

とはいえ、広い意味でのバブル状況下にあるのは、なにもビジネス書だけにかぎった話ではない。毒舌やら、正当な批評やらが「関与していない」エリアでは、「読めばぐんぐん背が伸びる」といったレベルの本が、書架を埋め尽くさんと今日も増殖しつづけている。本書のようなスタイルと姿勢で、たとえば日本の文芸とか、Jポップの歌詞などを対象にして、だれか書いてくれないものだろうか。各ジャンルでそれがあってはじめて、先進国に求められるべき最低レベルの文化的水準の萌芽が、この国にもめばえるはずだと思うのだが。

Text:DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)

「ビジネス書大バカ事典」
勢古浩爾・著
(三五館)
1,680円 [税込]