10 9/28 UPDATE
『王様と私』のシャム王、『荒野の七人』のクリス・アダムス(および『ウェスト・ワールド』のロボ)、そして個人的には『複数犯罪(FUZZ)』のデフ・マンを演じた名優ユル・ブリンナー。彼はすぐれたフォトグラファーでもあった。本書は、そんなユルの最新写真集。これは、かなり、いいです。
彼の写真集としては、96年に発表されたものが一冊あった。しかしあちらは、カジュアルなスナップ・ショット集といった印象が強かった。本書はそれとは打って変わって、アート性の高い、重量級のポートレート集となっている。
被写体となっているのは、まさに「往年のスター」としか呼びようがない人々だ。たとえばそれは、『十戒』のモーゼ役で撮影中のチャールトン・ヘストン、『アナスタシア』のセットにいるイングリッド・バーグマン、などなど。セット外での写真も多く、エリザベス・テーラーはプールサイドでくつろぎ、(ユルと仲よしだった)オードリー・ヘップバーンはヴェニスのゴンドラに乗る、といった具合だ。なかでも、じつにインパクトがあるのが「シナトラもの」で、キッチンで子ども用の粉ミルクを調合している様子など──これも「やらせ」かもしれないが──ひじょうにいい写真だ。逆にあまりにも決まりすぎているのが「ヘリから降りてくるシナトラ」。映画撮影中のワン・シーンなのだろうか、まだメイン・ローターが回転しているヘリコプターから、白い歯をかがやかせたシナトラが降りてこようとしているのだが、中折れ帽をあみだにかぶり(!)、右手にはウイスキーのグラスを持っている(!!)──という、かっこよすぎて、超現実的とすら言える一枚だ。
まず本書は、すでに消滅してしまった、ハリウッド黄金期の大スターたちの、すさまじい煌めきを楽しむことができるものだろう。しかし、ここで特筆しておきたいのは、どの写真にも、じつに「あたたかい」視線が感じられるということだ。これこそが、完璧な異邦人として50年代のハリウッドに舞い降りたユル・ブリンナーという人物が持つ最大の魅力だったのではないか。彼の没後25周年を記念した一冊である本書。大判で、そして全800ページというこの大著は、まるで異星の王朝絵巻のような一大エピックを体験させてくれるはずだ。
Text:DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「YUL Brynner: A Photographic Journey」
Victoria Brynner (著)
Edition 7L