10 10/26 UPDATE
「ありそうでなかった」一冊なのではないか。「日本においては」なかった、一冊なのではないか。アメリカやイギリスなら、すくなくとも、80年代ぐらいから、こうした類の写真集は、数多くあったはずだ。それがこうして、ひじょうに高いクオリティで、この国でも出版されるようになったことを、まずは素直に喜びたい。
『ぴあ』誌の創刊35周年記念出版である本書は、その書名のとおり、「日本のロック」の歴史を、ミュージシャンの写真を追っていくことで、一気に通覧しようというもの。全102組のアーティストが掲載されて、スタートは1970年。であるから、GS末期のスパイダースから、遠藤憲司、はっぴいえんどあたりを起点として、各時代を騒がせた顔ぶれが、クロノジカルに並んでいく、という構成だ。ピックアップされた写真の性質が、多岐にわたっているところもいい。レコード会社から発注されたポートレート、雑誌取材時のそれ、あるいはライヴ・ショット......そういったさまざまな用途のもと撮影されたもののなかから、本書の趣旨にあったものが選択されている。これも多岐にわたる撮影者たち――伊島薫、井出情児、ヒロ伊藤、迫水正一、鋤田正義、平間至、三浦憲治、ハービー山口といった、錚々たる顔ぶれが、それぞれの時代の空気のなかで写真へと定着させた「ロック・ミュージシャンのイメージ」を、こうして簡単に一覧できるというのは、なんとも贅沢な気分にさせられる。こうした一冊が、なぜか、この日本には、まったくもって欠けていた。
もちろん、こういう性質の書籍の宿命として「あのバンドは入ってないのか」という意見は、いたるところで、かならずや発生するだろう。僕は個人的に、フィッシュマンズが入っていないことが「やっぱりね」と思いながらも、ちょっと納得がいかない。また、エディトリアル・デザインも、これがベストだとは思えない。写真の上に、英文で大きくキャプションを載せるというのは、どうか。「Murahachibu」とローマ字で書かれても、ぐっとはこない。ここはやはり、絶対的に「村八分」であるべきだ。できれば極太明朝で。「外道」「裸のラリーズ」も同様。
と、そんな苦言(or 個人的な感想)を呈してはみたものの、本書が労作であることは間違いない。キャロル、ウェストロードあたりの荒ぶる70s前半から、ミュージシャンが短髪&サングラス姿でパンク/ニューウェイヴとなる70s後半への突然の変転ぶりなど、趣きぶかい。そして当たり前だが、いずれの時代も「ロック」以上に幅をきかせていた、ニューミュージックと言えばいいのか、なんと言えばいいのか、「編成はロック・バンドだが、内実はロックではない」日本固有の大衆音楽の演者たちが、きっぱりと排除されている姿勢も、評価したい。逆にそこから気になるのが、掲載のミュージシャンが、99年で打ち止めとなっているということ。これはどういう理由なのだろうか。00年代は、まだ熟成が足りないという判断なのだろうか。「日本のロック」がミスター・チルドレンにいたって終わる、というのは、ひじょうに困るのだが。もちろんこれも、「個人的な意見」なのですが......と、言いたいことが尽きないところも、楽しい一冊だ。
text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「日本ロック写真史 ANGLE OF ROCK」
撮影:伊島薫/井出情児/ヒロ伊藤/迫水正一/鋤田正義/平間至/三浦憲治/ハービー・山口
撮影:君塚太
(ぴあ)
3,990円[税込]