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テルマエ・ロマエ ll

テルマエ・ロマエ ll

快進撃を続ける異色の漫画『テルマエ・ロマエ』第二巻

10 10/29 UPDATE

じつはいま、あらゆるマンガのなかで「つぎはどうなのるだ!?」と僕が気になってしょうがないものが、本作『テルマエ・ロマエ』にほかならない。特殊な内容なのに──いや、その特殊性ゆえに──大ヒットを飛ばして、いろいろな賞を受賞した第一巻を経て、満を持して登場したこの第二巻なのであるが......面白かった。これほど各種の「しばり」が多いにもかかわらず、毎回かならず話を落として、そして読者の興味をひっぱっていく作者の技量は素晴らしい。しかもそれがギャグ・マンガであるというところで、素晴らしいの二乗だ。

まだ読んだことのない人のために、本作の設定をかいつまんで説明すると、こんな感じだ。キリスト教に支配される前の古代ローマ帝国。そこで暮らす浴場技師の主人公・ルシウスが、なにかあると(難問にぶち当たり、ローマ風呂の浴槽に沈んでしまったりすると)なぜか現代の日本の「風呂」にまつわる場所にタイムスリップする。そこでルシウスいわく「平たい顔族(=日本人)」の洗練された風呂文化を一瞥して、彼はまた古代ローマに戻り、「タイムスリップ中に知った」文化や技術を見事応用して一件落着!......といったものがアウトラインであり、これはどう考えても「読み切り一回きり」のごとき発想のものだったように、僕には思える。しかし、それが持続していくのだ。ペース・アップすら、していくのだ。これを追う快楽は、ちょっとほかでは代えがたい。作者の「ローマ知識」の豊富さと、それをなかば強引に「日本文化」とつなげる手法の面白さ、それを表現しきるマンガ家としての高い技量、といったものがぜんぶ合致して、常人なら「ちょっと思いついた小話」程度のはずのアイデアから、ここまでのエンターテイメントができあがるというのは、まさに「これぞ日本のマンガ文化の凄みなのだ」と、それこそ古代ローマ人に見せてやりたい気分になる。

日本人は元来、「日本文化の固有性」ということを指摘される本を、ことのほか好むという性質がある。また、昭和の遺風として塩野七生調の「ローマ知識」を、とくにおじさん層が大好きだったりする。これら二点が、本書のヒットの背景にはあると考えられるが、作者がそれにおもねるのではなく「その先を行っている」ことを示すエピソードが、第二巻の冒頭に収録されていることも注目に値する。日本人のローマ文化好き心性の根源には「キリスト教との距離感という共通点がある」とする視点は、圧倒的に正しい。

また、本作および、『へうげもの』『聖☆お兄さん』といった、普通なら「スキマねらい」とされそうな作品が、きっちりとヒットをしている、という事実は、ロックにたとえればヘヴィメタルばかりとなってしまったかのような「メインストリーム」マンガ界への、意識的な作者および読者からの自浄作用のごとくすら思える。日本マンガのひとつの突端がここに「こんな形で」あるのだから、現代というもの捨てたものではないとも思う。

text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

「テルマエ・ロマエ II 」
ヤマザキマリ・著
(エンターブレイン)
714円[税込]