10 11/24 UPDATE
要するにこれは「元素の本」である。科学書であり、図鑑であり、118の「元素」が、いったいどういうものであるのか、ということをまず、「見てわかる」ための本である。それがことのほか──まさに表題どおりに──美しく、楽しく提示されているのが本書。値段以上の価値はかならずあるだろう。とかく書籍にかんしてはシブチンなあのアメリカ人が、本書を20万部以上も買ったことに、それはよくあらわれている。
なにより本書は、手元にあると気分がいいはずだ。まず写真がいい。見開きページの左に「元素そのもの」の写真が掲載されて、右には「その元素を使用したモノ」が掲載される、というのがルールなのだが、なにより「元素」の写真がいい。ビスマスの結晶の美しさ。無骨ながら存在感抜群のリチウム。まるでオブジェのように美麗に撮られたそれらは、「部屋に置いておきたい」と思われられる(すでにあるのですが)。「水素」を表現するために、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえたワシ星雲の水素ガスの写真を断ち落としで使用する──というセンスも素晴らしい。まるで60年代のペーパーバックSFのような図版にて「水素は光を吸収します」ということが説明されるのだ。諧謔味あふれたテキストもいい。
こんな名言から、本書は幕を開ける。「いかなるものも無に帰することはできえない、万物は分解されて元素に帰する」──ローマの哲人、ルクレイティウスが紀元前50年に発した言葉だ。そんなところから、僕は本書を、お勉強のための本だとは思わない。これは「大人の嗜み」として、(あれば)マントルピース脇の安楽椅子にでも腰かけて、洋酒でもグラスのなかでくるくるやりながら、深夜にひとりでページを繰るための本だと思っていいのではないか。それぐらいやっていい、高級感あふれる一冊だ。
text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「世界で一番美しい元素図鑑」
セオドア・グレイ著 武井摩利・訳
(創元社)
3,990円[税込]