10 12/01 UPDATE
本書は、同社発行の「百曲探訪」シリーズの第一作。題材は「ブルース」であり、副題に「ロック・ミュージシャンがカバーした」とある。つまり、スタンダードなブルース・ナンバーのなかでも、ロック・グレイツが取り上げたものが紹介されている。この「百曲」シリーズは、世はiTunes時代ということで、「曲単位」での解説をすることを試みる、というのが主眼であるらしい。見開きで一曲、という作りだ。
というところから、まず本書は、わかりやすく、さっくりとブルースのお勉強をするのに適した一冊だ。アルバム単位、あるいはミュージシャン単位で解説されたブルース本よりも、とっつきやすさは、けた違いに高いだろう。また、ブルースという音楽じたい、「一曲単位」で取り出されたとしても、あらゆる評論や解説をおこなえるだけの広がりと強度をそなえたものでもある。クラプトンやツェッペリンという、だれでも知っている──かどうかは、いまこの時代においては、それすらも微妙ではあるのだが、まあそれは置いておいて──そんなバンドが、「だれ」の「どんな」曲をカバーしていたのか、というところから、ブルースの扉を開くというのは、悪くはないはずだ。僕自身、ロバート・ジョンソンを最初に知ったのは、ストーンズによるカバー・ヴァージョンからだった。
しかし本書がじつにいいのは、ここまで書いたことが「お題目」でしかない、というとことだ。なにより、記述が熱い! あらゆる項目に、ブルース愛に満ち満ちたテキストが横溢していて、そこに僕はムーヴされた。ブルースの本を作りたくて、「ロックをだしにした」というところが、とても正しい姿勢であると思う。ブルースなくしてロックなし、というのはいつも言われることだが、ではそれは「どういうことなのか」、そして、「どこがそんなに」つながっているのか、ということを、「ブルースの側から」説明される、という機会は、じつはそれほど多くはない。そういった意味でも、貴重であり、意気あがる一冊だと言える。ポップ・ミュージックにすこしでも興味がある人なら、一家に一冊、置いておいて損はない、イエローページ的な書籍がこれだ。
text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「百曲探訪 ブルース・スタンダード100曲」
小出斉 妹尾みえ 濱田廣也 著
(ブルース・インターアクションズ)
2,310円[税込]