11 3/08 UPDATE
遅ればせながらこの一冊を手にして、あまりの楽しさに、ここで紹介したい。スカ好き、ロンドン好きなら一度は足を踏み入れたことがあるだろう、あの「木曜日の夜」。ギャズ・メイオールが主宰する「ギャズズ・ロッキン・ブルース」──ロンドンにおける、「現存する最古のワン・ナイト・クラブ」の称号を得た名イベントの30周年を祝して刊行されたのが本書。
いやはや、とにかくすごい。序文各種、またはときどき挿入される各界著名人(?)のコメントなどのほかは、とにかくヴィジュアルばかりだ。パーティの模様を撮った写真も、かなりぐっとくるものが多いが、なによりも、なによりも多いのが、「フライヤー」とポスターの図版。まさか、30年間の全点がここにあるとは考えられないが、すさまじい物量で、次から次へと掲載されていく「手描き」フライヤーの数々が素晴らしい。この熱量! この無闇なグルーヴ! もちろん、日本とも縁が深いギャズ先生なので、日本公演のフライヤーもいくつか収録されているところが、ちょいと誇らしい。創意あふれる手描きの数々、そのタッチを眺めるだけでも、かなり目を楽しませてくれる一冊だろう。
僕が思うのは「ああ、ロンドン......」ということだ。古着、スクオット、マーケットに並ぶ安い中古盤、パブ、ぬるいビール、そして「クラブ」......およそ「クール・ブリタニカ」やら、あのくさった観覧車やドームやらと、考えられるかぎりなんの関係もないスピリットがここに横溢している。つっぱった貧乏人の美学、と言おうか。庶民パワー、と言おうか。日本とは比較にならないほど強固な階級社会のなれの果て、内戦寸前まで社会が荒廃した70年代を経て、「彼ら」だけが手にすることができた固有の果実から生じる電波が、ページをめくるたび、ものすごい出力でびんびんこちらに飛んでくる。「これだから、ロンドンの音楽はやめられねえよな!」などと、居酒屋の酔っぱらいおやじのように、僕はつぶやいたりした次第。
なにかとデプレッスドな空気にへこたれ気味の今日の日本人は、ここから学ぶべきなのではないか。ギャズがスピンしつづけるレコードの数々が、まさにそれが、「抵抗」の音楽であったことを、如実に、そして、チアフルにつたえてくれる、見事なる一冊がこれだ。
text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「Gaz's Rockin' Blues: The First 30 Years」
Gaz Mayall著
(Trolley Press)洋書