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Scenes from an Impending Marriage

Scenes from an Impending Marriage

エイドリアン・トミネによる初の「ノンフィクション」コミック

11 3/29 UPDATE

米名門の『ニューヨーカー』誌、そして日本ではトーキョー カルチャート by ビームス発行の文芸誌『インザシティ』で表紙イラストを手がけるエイドリアン・トミネ、ひさしぶりの本業(?)であるコミック最新作が本書。これが実体験をもとにしたエッセイ・コミックで、その題材は「結婚」──つまり、招待状の作成やら、パーティの席順のアレンジ、DJを雇う......などなど、晴れの日を前にした煩雑かつ「慣れない」作業の数々にカップルが(というか、おもにエイドリアンが)振り回され、へとへとになり、ときにキレたりしていく様を、コミカルなタッチで描いたものである。

じつは、彼にとって「ノンフィクション」コミックは、これが初となる。90年代、『オプティック・ナーヴ』シリーズにて、オルタナ・コミック界に静的で叙情的なリアリズム作風で新地平を切り開き、インディー・キッズや文芸キッズから熱狂的支持を得たことから考えると、待ち望まれていた一作、とも言えるだろう。それがコメディでもあり、「だれの身にも起こりえる」ような、「切迫した結婚式(原題直訳)」だった、ということが、本書のポイントだ。作風はもちろんぜんぜん違うのだが、『ハングオーバー』を見終わったあとのような、どこかあたたかな気持ちにさせられる一作である。

たまたま僕は、10年ほど前からエイドリアンと交流があり、彼の几帳面な性格の現物を知っている。そこを見事に対象化して、「マンガのキャラ」として笑いにつなげているところが面白い。「最初は友人のほとんどを式に呼ぶ気がなかった(おいおい)」とか、主人公の困ったちゃんぶりを、おおらかで愛らしい新婦サラさんがほだしていくところなど、ブルックリン版『僕の小規模な生活』と言ってもいいのではないか。彼の当代一流のイラスト・タッチ──ここに僕は、北斎にもつうじる「ストップ・モーションの技」を感じるのだが、本作はそれにくわえて、日本流のエッセイ・コミックをも思い起こさせる、独特のボケ味がくわわっている。そして、アメリカン・カートゥーンの伝統にのっとった全体像......これはまた、かの地のコミック界に新風を吹き込む一作となったのではないか、と僕は思う。

また我々としては、「アメリカではこうなんだ?」という、近くて遠い生活文化の一端を、カジュアルに知ることができる点でも、ひじょうに興味ぶかいのではないか。日系四世の彼の筆は、余人には代え難い「なにか」を、いままさに結びつけてくれているような、そんな気がしてならない。

text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

「Scenes from an Impending Marriage」
Adrian Tomine著
(Drawn & Quarterly)洋書