11 5/02 UPDATE
クルマ本ではあるのだが、国産車の歴史を追うと同時に、「そのとき、日本は(あるいは、日本を取り囲む世界は)どうだったか?」ということが、ツルツルとわかるようになっている、ありそうでなかったスグレ本がこれだ。敗戦直後の1945年から今日まで、十年紀をひとつのブロックとして構成。そのなかで年表および記事によって、クロノジカルに「クルマとその周辺事情」をたどっていく、という作りになっている。
たとえば、「GHQの許可によって国産車製造が再開」といったあたりでは、「英会話本が戦後初の一大ベストセラーに」といった事象が併置される。72年の「ケンメリ大ブーム」の背景では、連合赤軍のあさま山荘事件があった、ということがわかる。すくなくとも、まともに「リアルな」日本を描く意志をもつマンガ家、映画監督、小説家なら、必携の資料本と言えるのではないか。
さらに本書は、戦後史のダイジェスト本としても、カジュアルによくまとまっている、と感じさせられる。成功の秘訣は、やはり「題材がクルマだったから」だろう。加工貿易立国を目指し、ある一定程度の成功をおさめた「戦後日本」の象徴的プロダクトとしての自動車を中心に据えたがゆえに、本書は「これまでの日本の歴史」の総括本ともいえる性格をも帯びている。
いまや日本の若者はどんどん免許を取らなくなり、クルマはどんどん売れなくなり、さらに言うと、ガソリン車の未来などあるのかどうかもわからず、電気自動車ですら「フクシマ・ショック」のせいでその未来がクエスチョンである現在、シンプルなノスタルジーという感情を超えて、振り返ってみることに幾ばくかの価値はあるだろう「遠くない過去」の集積となっているとも言える。
広い世界において、「個人の自由」と「力の増大」の象徴となることが多い、自動車という工業製品を、日本人は、かなりうまく作った。そして歴史は、そこで停滞した、という記録がここにある。
text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「クルマでわかる! 日本の現代史」
大貫直次郎 志村昌彦 共著
(光文社)
1,575円[税込]