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FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン

FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン

「3・11」に即応して書かれた広瀬隆の注目の新著

11 5/31 UPDATE

「3・11」に即応して書かれ、5・13に発行され、爆発的にヒット中なのが本書。まさに「いま読んでおくべき」一冊だと言えるだろう。事態がまだ流動的であり、つぎつぎに「新事実」がニュースとなる現在──つまり、「あれは嘘でした」「間違いでした」との謝罪や釈明が連続する昨今──本書の読者ならば、その全員がこう言っていることだろう。「やっぱりね」と。

本書はまず第一部で、福島事故の「真相」、つまりそれが「人災」としか呼べないものであることを、ひじょうに明晰な筆致で、解き明かしていく。同時に、「いかなる事実が」歪曲されているのかを突く。放射能による人体への影響についても、わかりやすく説明される。そして第二部では、「日本のほぼすべての原発と核関連施設」が、ちょっとした地震でおじゃんになってしまう、ということが、冷静に説明される。「フクシマ」が終わりの始まりでしかないことに、議論の余地がないことが、読めば一目瞭然、まさに血も凍るような恐怖を味あわされる(4・7の余震ですら、地球規模の壊滅の一歩手前だったことがわかる)。地震そのもののメカニズムや、それによる「原発破局」を描ききった著者の前作『原子炉時限爆弾』のほうが網羅性は高かったのだが、いまはまず本書、そしてつぎに『~時限爆弾』と読み進むのがいいのではないか。こちらでは浜岡原発の冗談のような脆弱性について、より詳細に解析されている。

僕は第一次「広瀬隆ブーム」を記憶している。その当時から、著者は多くの批判を受けていた。「原発はこわい」と言い続けるトンデモおじさんとして、モノマネの対象にすらなっていた。であるから、「広瀬隆が言ったことが全部当たった」ような、黙示録的世界がいま眼前にあることに、感慨ぶかいものを感じる。『~時限爆弾』以来、「10年後に日本があるかというと、おおいに疑問である」と著者は言っているのだが、これも当たるのだろうか。すくなくとも、なにも知らずに、わからずに、あまつさえ「騙されたまま」無言で死んでいくことをよしとしないのであれば、いま虚心に手にとっておくべき一冊が本書なのではないか。

ひじょうに不思議に思うことがある。なぜいま、日本政府は、「原発を全部やめよう」と言わないのか、ということだ。「全部すぐやめる」は無理かもしれない(広瀬隆はできると言っているが)。しかし、すこしでも早く「全廃」に向かっていくんだ、という方針は、毎日不要の放射線を浴びつづける羽目に陥った国民全員が、よりよき未来に向かって進む足がかりとして、これ以上ない──いや、「これ以外ない」ものなのではないか。なぜ日本政府は、この期におよんでもなお、「我々全員で望ましい未来を作るのだ」という理想を凝縮したスローガンひとつ、放てないのか。そんなに利権だけが大事なのか。「電気が足りない」など、知ったことか(というか、電力会社と政府の嘘に決まっている)。なぜならば、クールビズで「節電」を口にしながら、同時に「オール電化」を広めようとしていたのは、どこのだれなのか。それはついこのあいだの話だ。

まるで往年の筒井康隆作品におけるブラック・ジョークのように。戯画化された俗物的人格がスラップスティクを演じているかのような「事態」が、悪夢のように、これから日本が本当に終わるときまで、毎日つづいていくのか。「食い止める方法は、ひとつしかない」と著者は言う。「笑いものにされていたトンデモおじさん」が言うことだけが、ずっとむかしから「まとも」だったのではなかったかと、僕は感じている。

text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン
広瀬隆・著
(朝日新書)
777円[税込]