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洋服そのほか、ビートルズの「スタイル」についてだけ、分析・研究し、つまびらかにしたものが本書だ。こうした切り口の本は、これまでにもあったかもしれない。なにしろ、相手はビートルズだ。どんな本があっても不思議はない。しかし本書は、先行のいかなる類書よりも圧倒的に優れているはずだ、と僕は断言できる。
なぜならば、著者が「あの」パオロ・ヒューイットだからだ。ザ・ジャムの、オアシスの評伝を書いたミュージック・ジャーナリストとして、ではなく、「永遠なるモッド兄貴」としての彼の仕事に、僕は全幅の信頼を寄せている。つまり本書は、若きポール・ウェラーが率いたレスポンド・レコードのジャケ裏にて、「カプチーノ・キッド」名義で、いかしたライナーノーツを寄せていた男の手による「ビートルズのスタイル研究」なのである。自身のニット・ブランド(!)を持ち、「ベン・シャーマンのシャツ」についての共著もあるパオロの、渾身の一冊がこれだといえるだろう。
本書はまず、写真がとてもいい。びっくりするほど、「あまり目にしない」ものが多い。そんな写真で、ハンブルグ時代のロックンロール・スタイルから、襟なしスーツ&ブーツの時代、サイケデリック期、それぞれの変遷について、一覧して見ることができる。「ビートルズの髪型の変遷」だけで一章が割かれている本なんて、ほかにあるだろうか? アップルのマーチャンダイジング戦略についての記述も興味ぶかい。インタヴューも秀逸で、ビートルズの最初のテーラー、ウォルター・スミスや、60年代末の彼らのヘアドレッサー、レスリー・ケイヴンディッシュなども取材されている。
そんなわけで、見て楽しく、読み応えもかなりある一冊となっている。ビートルズ・マニアでなくとも、60年代UKの音楽ファッションにすこしでも興味がある人ならば、またとない参考書となるはずだ。
「服は重要なんだ。すごく重要なんだ」と語り始められる第一章のタイトルが「ストロベリー・テディ・ボーイズ・フォーエヴァー」――ときただけで、「おっ」と思ったあなたの勘に、間違いはない。
text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「Fab Gear: The Beatles and Fashion」
Paolo Hewitt・著
(Prestel Pub)洋書