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ショック・ドクトリン─惨事便乗型資本主義の正体を暴く

ショック・ドクトリン─惨事便乗型資本主義の正体を暴く

2011年を代表する一冊と呼ぶべき、世界に衝撃を与えた書の待望の翻訳。

11 12/27 UPDATE

今年を代表する一冊、と言っていい書籍のひとつだろう。08年、世界に衝撃を呼んだ原著、ようやくの翻訳出版が、2011年に成されたことの意義は大きい。本書はそのタイトルどおり、テロや戦争や天災など「惨事」が起きて人心が動揺しているところに付け込んで、「それまでは想像できなかった」市場主義的経済改革を断行しては、一部の特権集団だけがカネ儲けをする──という新自由主義的メソッドについて、その源泉と実践例を真っ正面から喝破した、すさまじい一冊である。

その「実践例」としては、いみじくも「衝撃と畏怖」作戦と銘打たれたイラク戦争はもちろん、9.11後およびカトリーナ後のアメリカ、チリのクーデター、「津波後」のスリランカなどが挙げられている。経済学者フリードマンを始祖とするシカゴ学派が、いかに火事場泥棒的に、「惨事のあと」の経済を支配していったのか、その身の毛もよだつような過程を、著者は丹念に追っていく。

本書から知ることができるのは、まず、「強欲資本主義」という名のばけものは、いかなる民主主義国家の政府よりも上位にあって、世界中で猛威をふるっている、という事実。また、いまのユーロ経済危機のような「自作自演」もお家芸だということ。あるいは身近な例でいうと、日本政府が「震災で被害が出たから増税だ」というのは、出来の悪い官僚が自前で考えた狂気の愚策ではなく、本書におけるドクトリンの(下手っぴいな)猿マネだった、ということが、手に取るようにわかる。

僕は個人的に、日本がこのままのコースをたどっていったら、TPP参加と増税と景気低迷によって溜まった国民のガス抜きと、被災地を見捨てる言い訳と、原発をやめない理由づけと、なにより沖縄の基地問題一発解決!のために、戦争をやらされるのだろうな、と考えている。なぜならば、「日本と中国が領土問題で小競り合い」をして、「それをアメリカが仲裁」して、そして日本は憲法改正して国軍創立、「いつでも暴れられるアジアの狂犬」として、地域内でのアメリカの軍事負担を減らしつつ、同時にアメリカの軍需産業をいっぱい儲けさせる......といったようなシナリオが、アメリカの「1%」の奴らおよび、「ショック・ドクトリン」を駆使する側にとって、なにより都合がいいと思うからだ。このシナリオ、来年あたりから発動するのではないか。なにしろ日本はいま「ショック」を受けた直後なのだから。「これから起こること」は、まず最初に、本書にかかれてあることのアレンジであることは間違いない。

いかなるシナリオだろうが、そんな妄言をトップダウンで吹き込まれた際には、話半分にして聞き流すためにも、本書は「いま読んでおくべき」一冊だといえるはずだ。

text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

「ショック・ドクトリン──惨事便乗型資本主義の正体を暴く」上・下
ナオミ・クライン著 
幾島幸子・訳 村上由見子・訳
(岩波書店)
上下刊各 2,625円[税込]