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米クロニクル・ブックスより発売されていた写真集の日本版がこれだ。キース・リチャーズによる序文が和訳されていることなどが、洋書版との違いだ。デビュー50周年、あるいはそこに向けて、ローリング・ストーンズのレガシー商品がいろいろリリースされた。なかでもこの写真集は、ドキュメンタリーとしての価値がとても高い。書名のとおり、ストーンズによる72年の全米ツアーをジム・マーシャルが追ったもの。つまり、俗に「S.T.P.(ストーンズ・ツアリング・パーティ)」と呼ばれた、「セックス・ドラッグ&ロックンロールの一大乱痴気旋風だった」と語られる、伝説的なツアーのレポートとして見ることができる。
このころのストーンズは、ビートルズなきあと、ロック・スターダムの頂点に君臨していた。どれぐらいの君臨ぶりだったかというと、たとえば、本書にも収録されている、ミック・ジャガーの有名な白いジャンプスーツ姿。アンドロギュノスという語が、ロックスターを語るときに軽々しく使われる傾向がかつてあったが、その風潮が始まった原因の一端は、きっと72年のミック・ジャガーのこの姿にあったはずだ。そういった圧倒的なステージ・フォトもいいが、オフ・ショットも面白い。たとえば、いまでは考えづらいのだが、ストーンズのベロ・ロゴがプリントされたTシャツを、キース・リチャーズが普通に着ていたりもするのである。レーベルができてまだ日が浅かったし、時代背景も考え合わせると、「ここらへんで会場物販用のプリントTが作られ始めたのだな」と推測することもできる。
映画『オールモスト・フェイマス(邦題:あの頃ペニー・レインと)』のなかに、こんなシーンがあった。この映画は73年、つまり本書のツアーの翌年のアメリカを舞台としている。映画のなかで、ロックバンドのマネージャー役の男がこんなことを言う。「ミック・ジャガーが50歳になってもロックスターをやってるなんて思うかい?」――もちろん、やっている。やっていた。この映画は2000年の公開なので、観客はみんなここで笑った。と同時に、こんなことも思ったはずだ。「73年当時のストーンズは、ミック・ジャガーは、そこから先にはもう持続することも不可能だと感じられるほどの光量を発していたのか」と――映画のなかの彼にそう言わしめた、まさに魔性の美にも満ちた、ロックンロールの夢物語が本書のなかにある。
text by DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「1972年のローリング・ストーンズ」
ジム・マーシャル著
(スペースシャワー・ネットワーク)
2,730円[税込]