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New York Drawings

New York Drawings

『ニューヨーカー』の表紙イラストも手掛けるエイドリアン・トミネの最新画集

13 2/26 UPDATE

我が敬愛する畏友、エイドリアン・トミネの最新作は、8.125インチ × 11インチ、大判フルカラーの美麗画集だ。ここにはまず、米名門誌『ニューヨーカー』に彼が提供した作品が収録されている。イラスト、カット、それからもちろん、表紙イラストレーションも、全ページがポスター並みの精度で再現されている。マンガもある。かつて当欄で紹介した、(彼の芸風のひとつである)ブルックリン版「僕の小規模な生活」調のエッセイ・マンガもフルカラーで嬉しい。もちろん、これも『ニューヨーカー』に載った(!)ものだ。同誌掲載以外の作品もわずかにある。西海岸出身の彼がニューヨークへ渡ってからの7年間に描いたもののうち、都会的な一枚絵もいくつか併せて収録されている。以前にリリースされた15ページの小さな画集『ニューヨーク・スケッチズ 2004』の続編と考えることもできる。あるいは、あちらが「上京してすぐ」の彼だとするならば、その街で結婚し、子供をもうけて大人になった月日の充実ぶりが反映されたのが今回のこの大作だと見るべきだろうか。『ニューヨーカー』以外の作品としては、ビームスが発行している文芸誌『インザシティ』のカバーのために彼が描き下ろしたイラスト数点も収録されている。これらを発注したのは、僕だ。

彼の作風を「葛飾北斎のようだ」とかつて僕は評した。こんなふうに、北斎なのだ。この表紙を見てほしい。二台の地下鉄がすれ違おうとしている、その一瞬だ。片側の車両に乗っている女性が、もう一台の車両にいる男性と目が合う。二人は、お互いが同じ本を読んでいることに気がつく――この一瞬あとには、二人は別方向に通り過ぎていくはずだ。もう二度と目を合わすことはないかもしれない......「一瞬をとらえる」「時を止める」ことによって、その前後の時間の広がりを感じさせる、という手法をとったときの精度、そこに静止させた物語の豊穣さと濃密さが、きわめて北斎的だと僕は思うのだ。この特質が、「米文学短篇の最高の檜舞台」でもある『ニューヨーカー』の編集部に彼が愛された理由のひとつなのだと僕は思う。エイドリアンの絵には、ときとして、下手なショート・ショート以上に物語性のふくらみがある。

カリフォルニア時代、彼はたぶんノーギャラで、オリンピアのKレーベルの7インチやCDのジャケ絵を描いていた。自費出版でアングラ・コミックを描きつづけ、その道で絶大なるファンを獲得していた。そんな男が、これほどまでに活躍できる場所がある、というところに、『ニューヨーカー』の健全なる懐の深さがある。そしてもちろん、ニューヨークが世界でもっとも魅惑的な都市でありつづける秘密の一端がある。

text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)

「New York Drawings」
Adrian Tomine・著
(Drawn & Quarterly)洋書