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ロサンゼルスのダウンタウンから西へ、パシフィック・パサデナで太平洋と面するまで延びるサンセット・ブルヴァード、そのなかのウェスト・ハリウッドを通過する1マイル半ほどがサンセット・ストリップと呼ばれる。ロックンロールの名所旧跡である数多くのナイトクラブやバー、ライヴ・ヴェニューがひしめいているこの地域の名物のひとつが、巨大なビルボードだ。自動車に乗ってストリップを行く人々の目を留めるため、中空に設置されたこれらビルボードのうち、ロックンロールに関するものだけを蒐集した写真集が本書である。
67年のドアーズを皮切りに、ツェッペリン、ジミ・ヘンドリックスからピンク・フロイド、ザッパ、アリス・クーパー、女性差別だと物議をかもしたストーンズの『ブラック・アンド・ブルー』、表紙にもなったビートルズ『アビー・ロード』まで、まさに絢爛たるスターたちのレコードやコンサートを宣伝するために、職人が腕によりをかけたビルボードの数々がここに収録されている。撮影された時期は、60年代末から70年代いっぱいが中心、つまりはLPレコードの全盛時代、ロックの黄金時代だ。82年にMTVの放送が始まり、レコード会社は宣伝費の用途を変更する。それまではビルボードに使われていた予算がヴィデオ・クリップに振り替えられて、本書に納められた文化は徐々に痩せ細っていった。今日、ストリップの上空を飾るのは、アパレル・ブランドの広告が主流だ。
もっとも、たとえ全盛期であったとしても、ビルボードにおける一枚のアートの存続期間はあって一か月。であるから、その儚いアートは、こうして記録されない限り、思い出せない夢として忘却の彼方に消えてしまっていたのだろう。ストリップのすぐ近くに少年時代から住んでいたという著者の長年の積み重ねがあればこそ、初めて形にすることができた、地上に無二といえる貴重な一冊が本書なのではないか。
ちなみに僕のお気に入りのビルボードは、ザ・フーの『トミー』ロンドン・フィル版、ボウイ『ダイヤモンドの犬たち』ツアー、10cc 『愛ゆえに』、しかしなんと言っても、ELO『アウト・オブ・ブルー』の3D円盤(!)には度肝を抜かれずにはいられない。そういえば、モンテ・ヘルマン監督が『断絶(Two-Lane Black-Top)』の主演にシンガー・ソングライターのジェイムズ・テイラーを起用した理由は「ビルボードで見た彼の目が印象的だったから」だという。その一枚もきっと、ストリップ上空のカリフォルニアン・ブルーのなかにあったのだろう。その強烈な青を背景に、ハンド・ペインティングで描かれたこれら数々のピースは、沸騰する資本主義という名のハイパー・リアリズムの夢を描いてみせた。70年代、(片岡義男作品の一部や劇画『I・飢男』などで)日本にもその一部が照射した狂える光景の原点、その「現物」が250点以上、贅沢にここに納められている。
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「Rock 'n' Roll Billboards of the Sunset Strip」
Robert Landau・著
(Angel City Press)洋書