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サンフランシスコのストリート・アート雑誌『JUXTAPOZ(ジュクスタポズ)』の現時点での最新号、5月17日に発売されたイシューがこれだ。表紙には、見る人によってはおそろしく見慣れた飛行機の尾翼付近の絵がある。最上段の右には「MCAに捧ぐ」とある。つまり、昨年他界したMCAことアダム・ヤウクに捧げるイシューがこれだということだ。一冊まるごとビースティ・ボーイズ特集、しかも「あるヴィジュアル・ヒストリー」として、彼らの歴代のスリーヴ・アートに関係した人々に、つぎからつぎに「対面取材」していく、という構成となっている。
であるから、豪華な顔ぶれが揃い踏みすることになる。まずはヘイズ(今号のJUXTAPOZロゴも彼の手によるものだ)。ビースティの初ロゴ含め、数多くのスリーヴを手掛けたセイ・アダムス。写真家からはリッキー・パウエル。幼少時からMCAと仲がよく、きょうだいのように育ったというアラベラ・フィールド(写真家/女優)もいる。マイク・ミルズ御大もいる。今号の表紙絵(つまり、1stのカバーアート)を描いたワールド・B・オーメンなる人物の正体など、僕はここで初めて知った。そのほか盛りだくさん。ブルックリン・ダスト・ミュージックのロゴのぶっ倒れた像のイラストを描いたトッド・ジェームスまでもが登場する。
これらすべての取材を、映像作家・写真家でもあるジョーイ・ガーフィールドが、基本的にすべてひとりでこなしていった、という経緯が、このイシューの出来ばえに大いに貢献をしたのだろう。彼の手による前書きは、この一冊の取材と編集の作業があたかもオデッセイのごときものであったことを伝えてくれる。80年代からこっち、ビースティ・ボーイズという希有の才能と、我々は時代を共にすることができたのだ、という事実を再確認するために旧友のもとを訪ね歩く、というオデッセイがそれだ。
ビースティ本体からは、アドロックが取材に応えている。ファンならだれでも知っている、「あの」ナサニエル・ホーンブロワーについて、彼がいろいろ言う(!)ラインは必見だ。こんな冗談を、いままたあらためて口にする、というところ。これぞまさにビースティ・ボーイズの真骨頂ではないか!
僕は彼らとほぼ歳が同じだ。MCAに会ったことは一度しかないが、グランド・ロイヤルからは、僕が仲間とリリースしたバッファロー・ドーターの音源のUSヴァージョンを出してもらったこともある。だから、ビースティについては、なにかにつけ「とても他人とは思えない」ところがある。しかし、ときに思う。とくに、このような一冊を手にしたときに強く思う。ほとんど大半のファンから「他人とは思えない」「まるで、俺らの仲間みたいじゃないか」と慕われたところにこそ、ビースティ・ボーイズおよび「彼らの周辺にあった文化」の本質的特徴があったのではないか、と。それぞれバラバラの、妙な奴らが、無手勝流に水平結合したような文化が花開いた時代──それが20世紀の最終盤に世を広く覆ったことは、忘れられるべきではない。
アドロックとマイクDが準備中という自伝が世に出るまでは、ビースティの豊穣な世界の全体像を俯瞰する際に、このイシューが最も優れた一冊であることは間違いないだろう。興味ある人は、これは定期刊行物(月刊誌)なので、入手できる時期を逸しないようぜひご注意を。
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「JUXTAPOZ」
June 2013, Volume 20, Number 6
(High Speed Productions, Inc.) 洋雑誌