13 7/16 UPDATE
原著のタイトルは『Classic Rock Posters』である本書、その名のとおり、1952年から2012年まで、ロックンロールの黎明期から現在までの、ロック・ポスターの名品ばかりを集めに集めて、約500点を掲載した一冊だ。ポスターばかりでなく、フライヤーや簡素なチラシまで、「目利き」のセレクションは及んでいる。この「目利き」なのだが、一人はLA在住のポスター・アーティストのデニス・ローレン、もう一人はパンク/パブロック・レジェント、元ザ・デヴィアンツにして作家でもあるミック・ファレンなのだから、そのセンスは推して知るべし。この手の企画としては「決定版」と呼んでいいだけの質と量をそなえた名著となっている。
見どころは、まさに、人によって違うと思うのだが(違うべきなのだが)、僕の場合はまず、60年代のR&Bショウのポスターだった。色数の少ないシルクスクリーン印刷のこの味わいこそ、僕が思い浮かべる「ロック・ポスター」の原点だ。ここから発展して、サイケデリック時代の大爆発につながった。「ロックのアート」が確立し始めたのがこの時代で、そのせいか、西海岸にはロック・ポスターを扱っている店が伝統的に多い。いまやハリウッド名物となったアメーバ・ミュージックが、まだバークレーのテレグラフ・アヴェニューにしかなかったころ、ボウリング場サイズの店内だったにもかかわらず、かなり強烈にポスター・コーナーがその存在を主張していたことを憶えている。
そもそもこれは、サーカスやカーニヴァルの伝統が文化のなかにあるからなのだろう。あれら巡回興行のポスターというのが起源なのだろう。そして、シェパード・フェアリーのアートにつながるまで、「街なかで勝手にポスターを貼る」という行為が(合法・非合法問わず)連綿と続いてきた。そしてなにより、「ポスターを貼ることができる」壁が、より厳密にいうと「外壁」が、街のいたるところにあった――からこそ、こうした伝統は継承されてきた。それが「ロック・ポスター」の隆盛につながり、ロックのアートそのものをも進化させていった。
悲しいかな、その環境の根本のところから、日本にはなにもない。たとえば、アメリカでいくらいいポスターを発見しても、自宅の部屋の壁に貼るには限界がある。であるから僕は、レコードならいざ知らず、ポスターをコレクトすることには、躊躇させられるものがあった。そのせいで、手に取ったはいいが、買わなかったものも随分あった......という存念を、いくぶん晴らしてくれるのが本書かもしれない。しかし難点は、「眺めれば眺めるほど」本物のポスターを購入したくなってくるところか。すでに壁がいっぱいなのに!
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「名盤ロックポスター 1951-2012 」
デニス・ローレン ミック・ファレン 共著
(グラフィック社)
2,940円[税込]