13 7/22 UPDATE
気をつけていないと、鼻血が出そうになる。ページを繰る手が止まらない。目眩がしそうになる。まさに、これは、すごい一冊だ。
当欄で以前にご紹介した『ラジカセのデザイン! JAPANESE OLD BOOMBOX DESIGN CATALOG』の著者・松崎順一氏が、同じ版元でまたやった、前回にも増してのモニュメンタルな大仕事がこれだ。タイトルどおり、70年代を中心とした日本の家電製品を振り返ったものなのだが、今回取り上げたのは「カタログ」。「家電製品を紹介・宣伝するためのカタログ」の数々を選び、並べることで、時代の熱気と日本企業のかつての姿、そしてなによりも、著者の「家電愛」が能弁に物語られる一冊。フルカラー、しっかりと束がある336ページに、約550点のカタログが掲載されている。
取り上げられたジャンルは、オーディオを筆頭に、テレビ、電話、デジタル時計、ゲーム機、それから冷蔵庫や掃除機といった生活家電まで。もちろん僕は、オーディオの項に最も盛り上がったのだが(オープン・デッキのカタログがすごい)、カタログそのもののインパクトでいうと、テレビこそ最強なのかもしれない。なかでも、ナショナル「パナパナ」ブランドのテレビのカタログ。ローライズ・ビキニや濡れた白Tを着たハーフ・モデルの美女がつぎつぎに登場する。『ヤング島耕作』のエピソードは嘘ではなかった。「家電を宣伝するために女性のヌード写真を撮る」というあのストーリー、僕はフィクションだとばかり思っていたのだが、これがオリジンだったのか! と瞠目した次第。
そのほか、勢いあふれるグラフィックのなかで燦然と輝く「最新の製品」が、まさに無数に、読み手の目に飛び込んでくる。レイアウトも素晴らしい。
子供のころ、僕はラジカセとコンポのカタログを蒐集していた時期がある。「なにを買うか」調べるため、カタログをいろいろ見ているうちに、「見ること」そのものが楽しくなったからだ。凄みすら漂う製品写真、高精細の印刷、そして「それがあればどんなに豊かで楽しいか」を表現しようとする数々のイメージ──おそらく、その種の「イメージ」のなかで、日本という国が持ち得た最上のものが、家電カタログのなかにあったのではないか、と僕は実感とともに振り返ることができる。
今日、本書に掲載の製品のなかで、生活家電以外の機能は、スマートフォン一台でまかなうことが可能だろう。であるから、このなかにある「豊かさ」のイメージは、過去のものだ。いまとなっては、無意味なものだ。「無意味なものの価値」を楽しめる人にこそ、本書をお薦めしたい。また同時に、これほどのアイデアと技術と熱意のかぎりを尽くしていた産業界が、いまや瀕死の状態であるとは、いかなる失策からか、とも思う。であるから、じつにこれこそ日本らしい「もののあわれ」をも、たっぷり鑑賞することができる一冊なのかもしれない。
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「メイド・イン・ジャパンのデザイン! 70年代 アナログ家電カタログ」
松崎順一・著
(青幻舎)
2,940円[税込]