13 12/25 UPDATE
この切り口は世界初であり、また同時に、これほどのものは今後二度と作られることはないと断言できる、そんな傑作写真集だ。副題のとおり、その対象となっているのは「80年から88年」のUKインディー・ミュージック・シーンの「ファッション」。さらに詳しく言うと、80年代中期にその隆盛期を迎えたようなジャンル──インディー・レーベルに所属し、ギター・サウンド主体のバンドで、のちの「オルタナティヴ」ロック・シーンに多大なる影響を与えたようなムーヴメント──これらに関わっていたミュージシャンの「当時の姿」をとらえた写真を集めに集め「その服装」について考察したものが本書。
版元による紹介文がふるっている。「パンクやポスト・パンク、あるいは90年代のアシッド・ハウス・エラなど、取り上げられるべき時代はもっとほかにもある」としながらも、本書でフィーチャーした「ここだけが」まさにいつも見過ごされていたのだ!と声高に主張されている。であるから、たとえば「ポストカード・レコード」「クリエイション」「C86」「シューゲイズ」といった言葉に反応できる人なら、手にとって間違いはなく、逆に、見逃したなら一生後悔しても不思議はない、そんな一冊が本書だ。登場するミュージシャンは、テレヴィジョン・パーソナリティーズ、オレンジ・ジュース、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジーザス・アンド・メリー・チェイン、スミス、プライマル・スクリーム、パステルズ、ヴァセリンズ、タルーラ・ゴッシュ、ショップ・アシスタンツ......そのほか多数。特筆すべきは、本書収録の写真群は著者がネットワークを駆使して集めたもので、プロだけではなくバンド周辺のアマチュア撮影のものも多く「これまで未発表だった数百点」がここに初掲載されているという点。つまり「これまでに見たこともない」一枚が、「あのころに見たはずの光景」の象徴として、いまここに、目の前に蘇ってくる、という体験を読み手はすることになる。
たとえば、ラフ・トレードの店先にいるパステルズの面々の姿(86年)が典型的なのだが、僕らのあいだでは、こういう絵を見たときにはかならず「貧乏くさい」と言うことになっている。これは、くさしているわけでも誉めているわけでもない。なぜならば僕らも同様に「貧乏くさかった」からだ。同じような恰好をして、政府や資本家から押し付けられたもののことごとくを無視して従わず、小さな集団のなかの友愛を基盤とした物々交換調の経済活動によって、芸術的生活を成り立たせようとしていた、そんな時代があった。ロンドンにも、グラスゴーにも、サンフランシスコとベイエリア、シアトル、オリンピア、東京の一部にも、それはあった。表紙を見て僕はサンフランの友だちが写っているのかと思った(本当はMBVのデイヴ・コンウェイ!)。81年、グラスゴーのスパゲッティ・ファクトリーでのオレンジ・ジュースのライヴ写真、エドウィン・コリンズのネルシャツと前髪、これを何度見ても僕は全身の血が沸騰しそうになる。
というわけで、僕は本書を客観的に語る資質に欠けている。だから「たぶん」というただし書きを付けて言うのだが──たぶん、「この時代」を実際に体験していない世代にとっても、新鮮な驚きと手触りに満ちた、非常に特殊な一冊となっているのではないか、という気がする。「もしかしたら」その新鮮さと驚きのなかからこそ、最大の価値が生じるのかもしれない、とも思う。
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「A Scene in Between: Tripping Through the Fashions of UK Indie Music 1980 - 1988」
Sam Knee・著
(Cicada Books)洋書